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・・・ さて次の間へ通った新蔵は、遠慮なく座蒲団を膝へ敷いて、横柄にあたりを見廻すと、部屋は想像していた通り、天井も柱も煤の色をした、見すぼらしい八畳でしたが、正面に浅い六尺の床があって、婆娑羅大神と書いた軸の前へ、御鏡が一つ、御酒徳利が一対・・・
芥川竜之介
「妖婆」
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・・・このとき山の象どもは、沙羅樹の下のくらがりで、碁などをやっていたのだが、額をあつめてこれを見た。「ぼくはずいぶん眼にあっている。みんなで出てきて助けてくれ。」 象は一せいに立ちあがり、まっ黒になって吠えだした。「オツベルをやっつ・・・
宮沢賢治
「オツベルと象」