頭の禿げた善良そうな記者君が何度も来て、書け書け、と頭の汗を拭きながらおっしゃるので、書きます。 佐倉宗五郎子別れの場、という芝居があります。ととさまえのう、と泣いて慕う子を振り切って、宗五郎は吹雪の中へ走って消えます・・・ 太宰治 「政治家と家庭」
・・・自分がこれから生き伸びて行くうちに、必ずあの宗吾郎の子別れの場のような、つらくてかなわない思いをする事が、二度か三度あるに違いないという予感がした。 私のこれまでの四十年ちかい生涯に於いて、幸福の予感は、たいていはずれるのが仕来りになっ・・・ 太宰治 「父」
・・・ 次の幕は「葛の葉の子別れ」であった。畜生の人間的恩愛を描いたこの悲劇の不思議な世界の不思議な雰囲気も、やはり役者が人形であるがためにかえっていっそう濃厚になり現実的になるからおもしろいのである。 最後に「爆弾三勇士」があったが、こ・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
出典:青空文庫