・・・再発した癌が子宮へ廻っていたのだ。しかし医者は入院する必要はないと言う。ラジウムを掛けに通うだけでいいが、しかし通うのが苦痛で堪え切れないのなら、無理に通わなくてもいいという。その言葉の裏は、死の宣告だった。癌の再発は治らぬものとされている・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・果物が腐って行くことが残念だったから、種吉に店の方を頼もうと思ったが、運の悪い時はどうにも仕様のないもので、母親のお辰が四、五日まえから寝付いていた。子宮癌とのことだった。金光教に凝って、お水をいただいたりしているうちに、衰弱がはげしくて、・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・愛する者の別離は胎盤が子宮から離れるように大きな傷をその人の霊魂に与えるものである。したがってその際の心遣いは慎重で思いやり深くなければならないのである。 こうした別離は男女関係ばかりではない。朋友も師弟も理義によっては恩愛を捨てて別離・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・あの女は肺結核の子宮癌で、俺は御覧の通りのヨロケさ」「だから此女に淫売をさせて、お前達が皆で食ってるって云うのか」「此女に淫売をさせはしないよ。そんなことを為る奴もあるが、俺の方ではチャンと見張りしていて、そんな奴あ放り出してしまう・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・近来教育の進歩に随て言葉の数も増加し、在昔学者社会に限りて用いたる漢語が今は俗間普通の通語と為りしもの多き中にも、我輩の耳障なるは子宮の文字なり。従前婦人病と言えば唯、漠然血の道とのみ称し、其事の詳なるは唯医師の言を聞くのみにして、素人の間・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 長い時間立ったままで働く女、又は椅子にかけたなりで一日中執務しているような女の体には子宮後屈が多く、不姙その他の不幸を女と男との一生にもたらすことは周知の事実である。ソヴェトでは働く婦人の健康の特にこの点を注意して、新しく制定された工・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・四ヵ月目に、二十二歳のターニャ・イワノヴナが髪の毛と食慾と永久に健康な子宮を失って家に帰った時、彼女は更に一つのものを自分が失ったのを知った。彼女の良人はもうタマーラ・イワノヴナの良人ではなかった。マリンスキーの舞踊手でどこか他の強靭な子宮・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・それが体の外へ排出されるとき月経が起り、「子宮」の内壁から出血するのです。 この時期は、婦人にとって大切な時です。足をピチャピチャにぬらして風邪を引いたりしないように! ひどく揺れる自動車にのったり、馬にのったり、水浴びをしたり馴れ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
出典:青空文庫