・・・だが今日、毎日ちゃんと通学している学生が、殆ど有産階級の子弟だということは、民主日本の建設にとって、どういう重大なマイナスであろう。学生も食うために闇屋さえやっている。憲法で云われているだけでは駄目である。実際の可能を作って行かなければ、教・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・彼等は皆紳商の子弟にして所謂ゼントルマンたるの資格を作る為め、年々数千金を費す」中略「彼等は午前に一二時間の講義に出席し、昼食後は戸外の運動に二三時間を消し、茶の刻限には相互に訪問し、夕食にはコレヂに行きて大衆と会食す。」とそして、そのよう・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・いわゆる名門の子弟を教育する学習院は、そのころから伝統的な貴族や学者の子弟ばかりでなく金力であがなった爵位で貴族生活の模倣をたのしむものの子供や多額納税という条件で入学の可能な家庭の子供もふくんでいたのであったから、漱石の権力・金力と人間性・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・ 良子嬢が東郷元帥の孫としてのつまらない生活の反対物をカフェーに見出したところに、子供のうちから消費生活にだけ馴らされた娘の気分と、今日の貴族階級が生活感情の実質においては、赤化子弟に対する宗秩寮の硬化的態度に逆比例するデカダンスや低俗・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・何故なら、トルストイを見てもわかるようにこれまで作家と云えば上流の子弟で、十分教育もうけた人ばかりでした。が、ゴーリキイは小学校を卒業していないばかりか、大学は勿論中学も出ていません。一カペイキの借本をよんで育った、逞しい正直な鋭い精神をも・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・の中でトルストイが描いている家庭教師への憎みは貴族の子弟でもその背に笞をうけなければならなかったロシアの教育法というものを語っている。ゴーリキイの「幼年時代」には、一層荒々しさと暗さがむき出しな貧しい環境の中で人間的な稚い魂が目撃した恐怖と・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・財産としては、宅地を少し離れた所に田畑を持っていて、年来家で漢学を人の子弟に教えるかたわら、耕作をやめずにいたのである。しかし仲平の父は、三十八のとき江戸へ修行に出て、中一年おいて、四十のとき帰国してから、だんだん飫肥藩で任用せられるように・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫