・・・ 其処には古い印袢天に、季節外れの麦藁帽をかぶった、背の高い土工が佇んでいる。――そう云う姿が目にはいった時、良平は年下の二人と一しょに、もう五六間逃げ出していた。――それぎり良平は使の帰りに、人気のない工事場のトロッコを見ても、二度と・・・ 芥川竜之介 「トロッコ」
・・・しかし勘当されたとなると、もうどこも雇ってくれるところはなし、といって働かねば食えず、二十五歳の秋には、あんなに憧れていた夜店で季節外れの扇子を売っている自分を見出さねばならなかったとは、何という皮肉でしょう。「自分を見出す」などという言い・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・お召の側らにけばけばしい洋装がいるかと思えば、季節外れの衣裳を平気で身に附けている者がある。だから、京都は統一はあるが婦人の個性は失われている。東京は統一がない代りに、各自その人の個性がはっきり掴み取れる様な服装をしている。土地によると二つ・・・ 宮本百合子 「二つの型」
出典:青空文庫