・・・(八兵衛の事蹟については某の著わした『天下之伊藤八兵衛』という単行の伝記がある、また『太陽』の第一号に依田学海の「伊藤八兵衛伝」が載っておる。実業界に徳望高い某子爵は素七 小林城三 椿岳は晩年には世間離れした奇人で名を売った・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
ある時、その頃金港堂の『都の花』の主筆をしていた山田美妙に会うと、開口一番「エライ人が出ましたよ!」と破顔した。 ドウいう人かと訊くと、それより数日前、突然依田学海翁を尋ねて来た書生があって、小説を作ったから序文を書いてくれといっ・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・こうなるとジャーナリズムはむしろ科学の学海の暗礁になりうる心配さえ生じるのである。 純粋な物理学や化学の方面の仕事はどんな立派な仕事でも素人にはむつかし過ぎてわからないために、「こうした大発見」になる心配がまずまず少ないのであるが、たと・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・また巻尾につけられた依田学海の跋を見れば明治十九年二月としてある。 香亭雅談には又江戸時代の文人にして不忍池畔に居を卜したものの名を挙げて下の如くに言っている。「古ヨリ都下ノ勝地ヲ言フ者必先ヅ指ヲ小西湖ニ屈スルハ其山水ノ観アルヲ以テナリ・・・ 永井荷風 「上野」
・・・学者には依田学海、成島柳北がある。詩人には伊藤聴秋、瓜生梅村、関根癡堂がある。書家には西川春洞、篆刻家には浜村大、画家には小林永濯がある。俳諧師には其角堂永機、小説家には饗庭篁村、幸田露伴、好事家には淡島寒月がある。皆一時の名士である。しか・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・僕は人の案内するままに二階へ升って、一間を見渡したが、どれもどれも知らぬ顔の男ばかりの中に、鬚の白い依田学海さんが、紺絣の銘撰の着流しに、薄羽織を引っ掛けて据わっていた。依田さんの前には、大層身綺麗にしている、少し太った青年が恭しげに据わっ・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫