・・・ 犬は犬の道徳を守る。気に入ったようにやっていく。お前もやってのけろ! お前はその立派な、見かけの体躯をもって、その大きな轢殺車を曵いていく! 未成年者や児童は安価な搾取材料だ! お前の轢殺車の道に横わるもの一切、農村は蹂ら・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・あとを守るのは雄だ。卵のところを離れず、いつもヒレを動かしながら、水をきれいに交流させる。外敵が来ると、これとたたかう。試みに、私は指を水中の卵のところへさし入れてみた。すると、父親ドンコが頭を指にぶっつけて来て押しのけようとする。それでも・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・婦の一方が契約を無視し敢て婬乱不品行を恣にし他の一方を疏外するが如きは、即ち之を虐待し之を侮辱することにして、破約加害の大なるものなれば、被害者たる婦人が正々堂々の議論以て其罪を責むるは、契約の権利を護るの法にして、固より嫉妬の痴情に駆らる・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・例えば女の天性妊娠するの約束なるが故に妊娠中は斯く/\の摂生す可しと、特に女子に限りて教訓するが如きは至極尤に聞ゆれども、男女共に犯す可らざる不徳を書並べ、男女共に守る可き徳義を示して、女ばかりを責るとは可笑しからずや。犬の人にかみつきて却・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・公達に狐ばけたり宵の春飯盗む狐追ふ声や麦の秋狐火やいづこ河内の麦畠麦秋や狐ののかぬ小百姓秋の暮仏に化る狸かな戸を叩く狸と秋を惜みけり石を打狐守る夜の砧かな蘭夕狐のくれし奇楠をん小狐の何にむせけん小萩原・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・廻了というは正方形を一周することなれどもその間には第一基第二基第三基等の関門あり各関門には番人(第一基は第一基人これを守る第二第三皆あるをもって容易に通過すること能わざる也。走者ある事情のもとに通過の権利を失うを除外という。審判官除外と呼べ・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・きょう、またおどろくような迅さで、日本の人民生活と文化とが高波にさらされようとしているとき、文学を文学として守るためにも、この著者の諸評論は丈夫な足がかりを与えるものである。〔一九四八年六月〕・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・戦わなければならないでもない作家、一面には社と社との激烈な競争によって刺戟され、一面には報道陣の戦死としての矜りから死を突破しようとさえする従軍記者でもない作家、謂わば、命を一つめぐってそれをすてるか守るかしようとする熾烈な目的をも、立場の・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・と読んだ時、木賃宿でも主従の礼儀を守る文吉ではあるが、兼て聞き知っていた後室の里からの手紙は、なんの用事かと気が急いて、九郎右衛門が披く手紙の上に、乗り出すようにせずにはいられなかった。 敵討の一行が立った跡で、故人三右衛門の未亡人・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・かくて父は、ちょうど頼山陽がそうであったように、足利氏の圧迫に対してただひとり皇室を守る楠公の情熱を自分の情熱としたのであった。この心持ちが、憲法発布以後に生まれた我々に、そっくりそのまま伝わって来ないのは当然である。我々は物を覚え始める最・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫