・・・勤めている男女の従業員は、幾らかの割増しのついた給料を家へもちかえるとしても彼が、知人の安否を問い合わせる一枚のハガキは二十五銭になる。更に私たちが、周到な理解をもって知らなければならない重大なことがある。それは、工場、官庁その他の公共的な・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ けれども、家の安否を気遣う人々は、東京から来た列車が近くに止ると、声の届くかぎり、先の模様を聞こうとする。「貴方は何方からおいでです?」「神田。」「九段のところは皆やけましたか?」「ああ駄目駄目! やけないところなし。・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・同時に正氏が謫所へ、赦免状を持たせて、安否を問いに使いをやった。しかしこの使いが往ったとき、正氏はもう死んでいた。元服して正道と名のっている厨子王は、身のやつれるほど歎いた。 その年の秋の除目に正道は丹後の国守にせられた。これは遙授の官・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫