・・・「や、産声を挙げたわ、さあ、安産、安産。」と嬉しそうに乗出して膝を叩く。しばらくして、「ここはどこでございますえ。」とほろりと泣く。 七兵衛は笑傾け、「旨いな、涙が出ればこっちのものだ、姉や、ちっとは落着いたか、気が静まった・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ひどく安産でした。すぐに生れました。鼻の大きいお子でした。色々の事を、はっきりと教えてくれるので、私も私の疑念を放棄せざるを得なかった。なんだか、がっかりした。自分の平凡な身の上が不満であった。 先日、未知の詩人から手紙をもらった。その・・・ 太宰治 「六月十九日」
・・・姑必ずしも薄情ならず、其安産を祈るは実母と同様なれども、此処が骨肉微妙の天然にして、何分にも実母に非ざれば産婦の心を安んずるに足らず。また老人が長々病気のとき、其看病に実の子女と養子嫁と孰れかと言えば、骨肉の実子に勝る者はなかる可し。即ち親・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・今は皆自信を持って安産を考えていますが、夏頃はひどくうっ血した顔をしているし、苦しがっているし全く心配でした。五月頃聖路加へ通っていると聞いて私は困ったことと思い、しかし自分でよりよいところを紹介できないし、さて今度はどうなることかと思って・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・名として面白いし、いいのだけれど、その子の生れる田舎の習慣で、ある字は余りつかわないとか、そんなことまで条件に入って来て、男児安産の電報をもらって大いにあわてた。まだ、名の方が決定していなかったのである。 暢気なような責任の重いような気・・・ 宮本百合子 「若い母親」
出典:青空文庫