・・・太郎は咲枝ちゃんと安積。スエ子はこの三日間ばかり信州八ヶ嶽の麓の小海線という高原列車の沿線へ行き美しく日にやけてかえりました。私は家でギューギュー。そして、貴方にきょう「太陽」という題でヴォルフ博士がライカ・カメラで撮った海陸写真集をお送り・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・「おりゃあはあ、安積へでも行こうと思うごんだ」 余り思い入った調子なので、皆は不安になって祖母を見た。「どうして? おばあさま」 祖母は、赤漆で秋の熟柿を描いた角火鉢の傍に坐り、煙管などわざとこごみかかって弄りながら云う・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・ 二十三日 みな安積から帰る。大宮から自動車で来、やけ跡も見ない故か、ふわふわたわいない心持。 二十四日 夜からひどいひどい雨、まるで吹きぶりでひとりでにバラックや仮小屋のひとの身の上を思いあわれになる。A午頃福・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 一、Aの帰国 Aの田舎 一、困乱、安積A、田舎へ再びゆく。 一、家さがし、 一、別居生活、不なれな生活から来るヒステリー 一、作、Aの仕事、衝突、淋しい暮、祖母、 一、引越し。そのための不快。Aの父上京、Aの・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(一)」
・・・ 二十三日 林町の連中安積に立つ○云うまい、云うまい、辛い、一思いにさしたい。云い出すと、要求ばかりになる辛さ 七月二十五日 九時頃 坪内先生が来て下さる。 奈良から鹿のハガキ カーターの魔術を見に祖母をつれ・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(二)」
・・・ 母は台処に、女中と、安積から来た柿のことを話して居られた。自分が今朝行くことを知って居られたのだろうか、知らなかったのだろうか。 玄関の敷居を跨いだ時から心に湧いた素直さで、自分は何気なく配膳室と台所との境の硝子戸を押しあけた。・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 北海道開発に志を遂げなかった政恒は、福島県の役人になってから、猪苗代湖に疏水事業をおこし、安積郡の一部の荒野を灌漑して水田耕作を可能にする計画を立て、地方の有志にも計ってそれを実行にうつした。複雑な政党関係などがあって、祖父が一向きな・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
出典:青空文庫