・・・読者はそれに従って、注意深く、含まれたる凡てに目を注ぐならば、あたかも自分が見出した如く完全に証明せられ、理解せられる方法である。綜合というのは、これに反し定義、要請、公理等の過程によって結論を証明する、いわゆる幾何学的方法である。而して彼・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・によつて自由に完全に装幀することができるであらう。かくてこそ書物の著者は、正に読者の生活に「活き得た」のではないか。その各の人の装幀の価値に応じて、より浅く、またより深く、より自己に近く、また自己に遠く。・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・ 彼はベルの中絶した時に、導火線に完全に火を移し了えはした。 然し、彼が、痛いのは腰だ、と思っていたのに、川上の捲上線に伝って登り始めるのと、カッキリ同時に、その腰の痛みが上の方に上って来るのを覚えた。 彼は、駈けていた積りであ・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・元来人の子に教を授けて之を完全に養育するは、病人に薬を服用せしめて其薬に適宜の分量あるが如し。既に其分量を誤るときは良薬も却て害を為す可し。左れば父母が其子を養育するに、仮令い教訓の趣意は美なりとするも、女子なるが故にとて特に之を厳にするは・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・惜むべき彼は完全なる歌人たるあたわざりき。 曙覧の歌の調子につきて例を挙げて論ぜんか。前に示したる鉱山の歌のごときは調子ほぼととのいたり、されどこれほどにととのいたるは集中多く見るべからず、ましてこれより勝りたるはほとんどあるなし。・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・そして足あとはもう四つまで完全にとられたのです。 私たちはそれを汀まで持って行って洗いそれからそっと新聞紙に包みました。大きなのは三貫目もあったでしょう。掘り取るのが済んであの荒い瀬の処から飛び込んで行くものもありました。けれども私はそ・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・の中に、完全に燈火管制された都会の夜の物凄い気持を、自ら仮死状態に陥った都市の凄さを描いている。レーンの小説「戦争」又はレマルクの「西部戦線異状なし」バルビュスの「砲火」などを読んだ人々は、燈火管制下の夜の凄さというものは、仮死どころか、そ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・かれの弁解がいよいよ完全になるだけ、かれの談論がいよいようまくなるだけ、ますますかれは信じられなくなった。『みんな嘘言家の証拠さ』、人々はかれの背後で言い合っていた。 かれはこれを感じている。かれの心はこのために裂かれた。かれは労し・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・此処でわれわれの完全に共通した問題は分裂する。 われわれは前に、その正邪に拘らず、資本主義を認め、社会主義を認めた。この相対立する二つの社会機構を認めたと云うことは、われわれが歴史を認めたと云うことに他ならない。しかしながら、われわ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・誰が命令するというでもないのに、一団の人々は有機体のように完全に協力と分業とで仕事を実現して行く。 私は息を詰めてこの光景を見まもった。海の力と戦う人間の姿。……集中と純一とが最も具体的な形に現われている。……力の充実……隙間のない活動・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫