・・・私たち夫妻を凌辱し、脅迫する世間に対して、官憲は如何なる処置をとる可きものか、それは勿論閣下の問題で、私の問題ではございません。が、私は、賢明なる閣下が、必ず私たち夫妻のために、閣下の権能を最も適当に行使せられる事を確信して居ります。どうか・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・対して当該政治家の手腕器度を称揚する事はあっても革命党に対してはトンと同感が稀く、渠らは空想にばかり俘われて夢遊病的に行動する駄々ッ子のようなものだから、時々は灸を据えてやらんと取締りにならぬとまで、官憲の非違横暴を認めつつもとかくに官憲の・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・そのくせ、昔の先生に対してさえ、今は、官憲としての権力を振りまわして威張っていた。そして、旧師に対するような態度がちっともなかった。運動をやっている者は、先生だって、誰だって悪いというような調子だ。傍で見ても小面が憎かった。彼は、三人のあと・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・その争議団が、官憲や反動暴力団を蹴とばして勇敢にモク/\と立ちあがると、その次には軍隊が出動する。最近、岐阜の農民の暴動に対して軍隊が出動した。先年の、川崎造船所のストライキに対して、歩兵第三十九聯隊が出動した。三十九聯隊の兵士たちは、神戸・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・ 四十年間、絶えず彼を殴りつづけて来た官憲に対する復讐の方法は、彼には唯一つしかないと信じていた。そして、その唯一つの道を勇敢に突進した彼であった。 その戦術は、彼のに帰れば、どの仲間もその方法に拠った、唯一の道であった。 が、・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ 考えて見ると、それから一年位経つか経たないうちに、外国語学校教授で、英国官憲の圧迫に堪えかねて自殺したという、印度人のアタール氏を始めて見たのがその周旋屋の、妙に落付かない応接所であった。 今顧ると、丁度その夏は、貸家払底の頂上で・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・その上ドイツ官憲は執筆者たるマルクス、ルーゲ、ハイネ等の入国を禁止し、『年誌』の輸入を禁じ国境で没収した。カールが受取るべき手当も貰うどころではなくなった。しかし、イエニーは空皿を並べたテーブルにカールとその友人を招くことが出来るだろうか。・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
みなさん! 八十日間の検束の後自由を奪いかえして来た第一の挨拶を送ります。去る三月下旬以来、ファッショ化した帝国主義日本の官憲が狂気のような暴圧を日本プロレタリア文化連盟とその参加団体に加えつつあることはみなさん御承知・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・この種の事情は産別宣伝部で発行した『官憲の暴行』という各職場からのルポルタージュをよむと、誰にしても諒解せずにはいられない。 この重大な時期に民主主義文学運動の中軸としての労働者階級としての文学は、小市民をふくむ一般勤労者の文学とどうち・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・の最後に打撃を加えた出火事件の真相に対して、官憲はどんな調査をしただろう。 のこっている老舗の一つが、依然として講談社であり、そのすべての講談社的特性において残存していることは、日本の現代に何を語るだろう。戦争の年々に老舗たる貫録を加え・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
出典:青空文庫