・・・父母の言行によって養われ、あるいは学校の教授によって導かれ、あるいは世の有様に誘われ、世俗の空気に暴されて、それ相応に萌芽を出し生長を遂ぐるものなれば、その出来不出来は、その培養たる教育の良否によって定まることなり。就中幼少の時、見習い聞き・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・即ち我が精神を自信自重の高処に進めたるものにして、精神一度び定まるときは、その働きはただ人倫の区域のみに止まらず、発しては社会交際の運動となり、言語応対の風采となり、浩然の気外に溢れて、身外の万物恐るるに足るものなし。談笑洒落・進退自由にし・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
うす暗き片すみにかがむ死の影は夜の気の定まると共にその衣のひだをまし光をまし 毒気をまして人間の心の臓をうかがいて迫る。黒き衣の陰に大鎌は閃きて世を嘲り見すかしたる様にうち笑む死の影は長き衣を・・・ 宮本百合子 「片すみにかがむ死の影」
・・・そこに、その人の運命は定まるのです。 三 この意味から、真の自分が何であるかを知る必要があります。それは教育でもなければ、また時代の影響でもない、三つ子の魂そのものです。これは各個人によって違っているもので・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・ 生活費の点でもソヴェトでは例えば家賃、教育費、ある場合食費、電話料、電燈料、水道料等も各個人の収入との比例によって定まる。 画かきや作家等は一ヵ月の収入が不定だから、毎月の収入を届け出て、それに依って毎月家賃でも凡ての生活費の支弁・・・ 宮本百合子 「露西亜の実生活」
・・・博士であると否とにかかわらず学者の価値はその仕事の価値によってのみ定まる。しかも世間は「博士」が大きい仕事の標徴であるかのごとくに考えている。そこに不正と虚偽がある。この点についてはおそらく真に真理のために努力する学者たちは先生の態度を是認・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・君主と高ぶり奴隷と卑しめらるるは習慣の覊絆に縛されて一つは薔薇の前に据えられ他は荊棘の中に棄てられたにほかならぬ、吾人相互の尊卑はただ内的生命の美醜に定まる。心霊の大なるものが英傑である。幾千万の心霊を清きに救いその霊の住み家たる肉体を汚れ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫