・・・哲学の講義のようでもあり、また最も実用的な処世訓のようでもあり、どうかするとまた相対性理論や非ユークリッド幾何学の話のようでもある。そうかと思うと、また今の時節には少しどうかと心配されるような非戦論を滔々と述べ聞かすのであった。 同じ思・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・膠質化学の方面からの理論的興味は別としても実用方面からの研究もかなり多岐にわたって進んではいるがまだ分らないことだらけである。国家の非常時に対する方面だけでも、煙幕の使用、空中写真、赤外線通信など、みんな煙の根本的研究に拠らなければならない・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・無限の感謝は新時代の企てた女子教育の効果が、専制時代のそれに比して、徳育的にも智育的にも実用的にも審美的にも一つとして見るべきもののない実例となし得るがためである。無筆のお妾は瓦斯ストーヴも、エプロンも、西洋綴の料理案内という書物も、凡て下・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・現に事が纏るという実用上の言葉が人間として彼我打ち解けた非実用の快感状態から出立しなければならないのでも分りましょう。こういうと私が酒や女をむやみに推薦するようでちょっとおかしいが、私の申上げる主意はたとい弊害の多い酒や女や待合などが交際の・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・万年筆狂も性質から云えば、多少実用に近い点で、以上と区別の出来ない事もないが、強いて無くても済むものを五つも六つも取り揃えるのだから今挙げた種類の蒐集狂と大した変りのある筈がない。ただ其数に至っては、少なくとも目下の日本の状態では、西洋の煙・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・輓近に至って、単に認識論的となり、更に実用主義的ともなった。哲学は哲学自身の問題を失ったかと思われるのである。 私はデカルト哲学へ返れというのではない。唯、なお一度デカルトの問題と方法に返って考えて見よというのである。デカルト哲学は・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・言語を慎み寡黙を守ると言う、其寡黙も次第に之に慣るゝときは、人生に必要なる弁舌の能力を枯らして、実用に差支を生ずるに至る可し。我輩とても敢て多弁を好むに非ざれども、唯徒に婦人の口を噤して能事終るとは思わず。在昔大名の奥に奉公する婦人などが、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 学者をして学問の貴きを説かしめたらば、政事の如きは小児の戯にして論ずるに足らざるものなりといい、政事家もまた学問を蔑視して、実用に足らざる老朽の空論なりとすることならんといえども、これはいわゆる双方の偏頗論にして、公平にいえば、政事も・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・この金を私学校に用いなば、およそ四倍の実用をなすべし。その失、一なり。一、官の学校にある者は、親しく政府の挙動を聞見して、みだりにその是非を論ずるの弊あり。はなはだしきは権家に出入して官の事業を探索する等、無用の時を費して本業を忘るるに・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・上士の残夢未だ醒めずして陰にこれを忌むものあれば、下士は却てこれを懇望せざるのみならず、士女の別なく、上等の家に育せられたる者は実用に適せず、これと婚姻を通ずるも後日生計の見込なしとて、一概に擯斥する者あり。一方は婚を以て恩徳のごとく心得、・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫