・・・これを吸煙の上達と称し、世人の実験においてあまねく知るところなり。ひとしく同一の煙草にして、はじめはこれを喫して美なりしもの、今はかえって口に不快を覚えしむ。然らばすなわちこの麁葉は、最初に美を呈したるに非ず、ただ我が当時の口にてこれを美と・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・多年の実験によってこれを案ずるに、書を読むこといよいよ深き者は、いよいよ沈黙するが如し。而してその黙するや、これをいうを忘れたるに非ず、時あっていうときは、その言も亦適切にして、忌憚するところなきがゆえに、時としては俗耳を驚かすことなきに非・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・貝原益軒翁が、『養生訓』を著わし、『女大学』を撰して、大いに世の信を得たるは、八十の老翁が自身の実験をもって養生の法を説き、誠実温厚の大儒先生にして女徳の要を述べたるがゆえに然るのみ。もしもこの『養生訓』、『女大学』をして、益軒翁以下、尋常・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・ヴントの実験室、ジェームスの実験室、其等が無ければ、何時迄経っても真の研究は覚束ないと思い出した。そんなら銭の費らん研究法をしなくてはならんが、其には自分を犠牲にして解剖壇上に乗せて、解剖学を研究するより外仕方がない。当時は、医学上の大発見・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・それは恐らく実験のない人には気の附かぬ事である。 余は行脚的旅行は多少の経験があるが、しかしこの紀行にあるように各地で歓迎などを受ける旅行はまだした事がない。毎日毎日歓迎を受けるのは楽しい者であるか苦しい者であるか余にはわからぬが時とし・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・理想的美 俳句の美あるいは分って実験的、理想的の二種となすべし。実験的と理想的との区別は俳句の性質においてすでにしかるものあり。この種の理想は人間の到底経験すべからざること、あるいは実際あり得べからざることを詠みたるものこれ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・色々実験の成績もございますから後でご覧を願います。又病弱者老衰者嬰児等の中には全く菜食ではいけない人もありましょう、私どもの派ではそれらに対してまで菜食を強いようと致すのではありません。ただなるべく動物互に相喰むのは決して当然のことでない何・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・その重大な文学的実験を、林氏は自身のルポルタージュで告白しているのである。 将来日本の文学に、ルポルタージュが増大して来るであろうということは、とりも直さず、動いてやまぬ社会は作家に益々より客観的に現実を観得る眼力を要求しはじめているこ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・作者は、モスクワ生活でユートピア的に実験的に社会主義を理解したのではなかった。ロンドンに暮しパリを見、ベルリンの病的な印象などとソヴェト生活の現実とを生々しい対比で生きて、そのことから、人類が、幸福を求めて進んで来た歴史の前途に社会主義を確・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・また、海軍との関係の成立した日の腹痛の翌日、新飛行機の性能実験をやらされたとき、栖方は、垂直に落下して来る機体の中で、そのときでなければ出来ない計算を四度び繰り返した話もした。そして、尾翼に欠点のあることを発見して、「よくなりますよ。あの飛・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫