・・・さまで優劣の階段を設くる必要なき作品に対して、国家的代表者の権威と自信とを以て、敢て上下の等級を天下に宣告して憚らざるさえあるに、文明の趨勢と教化の均霑とより来る集合団体の努力を無視して、全部に与うべきはずの報酬を、強いて個人の頭上に落さん・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ か、死を宣告された顔! であった。 彼は安岡が依然のままの寝息で眠りこけているのを見すますと、こんどは風のように帰ってきて、スイッチをひねらないで電球をねじって灯を消した。 そうして開けたドアから風のように出て行った。 安岡は・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・死刑の宣告受けてない以上、どうしても俺は入らない。 私は頑張った。 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・男女同様婬乱なれば離縁せらるゝとあれば、男子として離縁の宣告を被る者は女子に比較して大多数なる可し。然るに本書には特に女子の婬乱を以て離縁の理由とす。亦是れ方角違いの沙汰と言う可きのみ。第四悋気深ければ去ると言う。是れ亦解す可らず。夫婦家を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・それならば、お七は死に臨んでも自分の罪を悪いと思わぬばかりでなく、いっそ自分のつけた火が江戸中に広がって、自分を死刑に宣告した裁判官と、自分を死刑に陥れた法律と、自分を死刑に行うべき執行人とを合せて焼き尽さなんだ事を残念に思うて居るのであろ・・・ 正岡子規 「恋」
・・・の背後にある思想というのは、五・一五事件、二・二六事件と、暴力で侵略戦争遂行の可能な軍部独裁にまで推進させてきた超国家主義、軍国主義その他、極東軍事裁判の法廷が、それをこそ共同謀議の思想として、有罪を宣告したファシズムの思想である。あるいは・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ドストイェフスキイは、ロシアの革命運動に参加した理由で死刑を宣告された。銃殺されようとするその瞬間に特使が来て彼は死なずに済んだ。然しこの一つの経験はドストイェフスキイの生涯を替えたのであった。 戦争前の私達と、済んだ後の私達と決して同・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・彼は今まで医者から妻の死の宣告を幾度聞かされたか分らなかった。その度に彼は医者を変えてみた。彼は最後の努力で彼の力の及ぶ限り死と戦った。が、彼が戦えば戦うほど、彼が医者を変えれば変えるほど、医者の死の宣告は事実と一緒に明克の度を加えた。彼は・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・という宣告のごときはもはや何の刺激にもならない。神はもともと存在しなかったのである。そこで人間は現世の欲望の満足を唯一の目標として生活する。彼を束縛するものはただこの満足のための功利的節度のほかに何ものもない。 しかし人はこの物質的な世・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・「人はすべて死刑を宣告せられている、ただ死刑執行の日がきまらないだけだ」という言葉がある。これは Man is mortal を言い換えたに過ぎないが、しかし特に私の胸を突く。そうだ、ただ日がきまらないだけだ。死の宣告はもう下っている。・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫