・・・からお昼頃にタキシーを呼び寄せさせて何処かへ行き、しばらくたって、クリスマスの三角帽やら仮面やら、デコレーションケーキやら七面鳥まで持ち込んで来て、四方に電話を掛けさせ、お知合いの方たちを呼び集め、大宴会をひらいて、いつもちっともお金を持っ・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・私たち師弟十三人は丘の上の古い料理屋の、薄暗い二階座敷を借りてお祭りの宴会を開くことにいたしました。みんな食卓に着いて、いざお祭りの夕餐を始めようとしたとき、あの人は、つと立ち上り、黙って上衣を脱いだので、私たちは一体なにをお始めなさるのだ・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・或る書房の編輯部に勤めて居られる。A君は、私と中学校同級であった。画家である。或る宴会で、これも十年ぶりくらいで、ひょいと顔を合せ、大いに私は興奮した。私が中学校の三年のとき、或る悪質の教師が、生徒を罰して得意顔の瞬間、私は、その教師に軽蔑・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・出版記念宴会の席上で、井伏氏が低い声で祝辞を述べる。「質実な作家が、質実な作家として認められることは、これは、大変なことで、」語尾が震えていた。 たまに、すこし書くのであるから、充分、考えて考えて書かなければなるまい。ナンセンス。・・・ 太宰治 「思案の敗北」
・・・内証の宴会をする。それがまた愉快である。どうかすると盛んな酒盛になる。ドリスが色々な思附きをして興を添えてくれる。ドリスが端倪すべからず、涸渇することのない生活の喜びを持っているのが、こんな時にも発揮せられる。この宴会に来たものは、永くその・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・実際始めのほうの宴会の場には骸骨の踊りがあるのである。胎児の蝋細工模型でも、手術中に脈搏が絶えたりするのでも、少なくも感じの上では「死の舞踊」と同じ感じのもののように思われる。終局の場面でも、人生の航路に波が高くて、舳部に砕ける潮の飛沫の中・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ ところが、おかしなことにはつい近年になってこのM君の無意味らしく思われた言葉が少しずつ幾分かの意味を附加されて記憶の中に甦って来るような気がする、というのは、どうかして宴会や友達との会合などが引続いて毎日御馳走を喰っていると、その揚句・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・この人は一年間に宴会に出席すること四百回、しかも毎回欠かさずに卓上演説をしてのけたそうである。わが国でも実業家政治家の中には人と会食するのが毎日のおもなる仕事だという人があると聞いてはいるが、三百六十五日間に四百回の宴会はどうかと思われる。・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・最後にダンチェンコのために宴会をやるつもりだから出席してくれろという事と、それから物集の御嬢さんを、自分がいなくなったら托したいという二件を依頼した。それで分かれた。 最後に逢ったのは、出立の数日前暇乞に来られた時である。長谷川君が余の・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・ある晩宴会があって遅く帰ったら、冬の月が硝子越に差し込んで、広い縁側がほの明るく見えるなかに、鳥籠がしんとして、箱の上に乗っていた。その隅に文鳥の体が薄白く浮いたまま留り木の上に、有るか無きかに思われた。自分は外套の羽根を返して、すぐ鳥籠を・・・ 夏目漱石 「文鳥」
出典:青空文庫