・・・ 天子さまは家来をお集めになって、だれかその薬を取ってきてくれるものはないかと申されました。みなのものは顔を見合わして容易にそれをお受けいたすものがありません。するとその中に一人の年老った家来がありまして、私がまいりますと申し出ました。・・・ 小川未明 「不死の薬」
・・・そして自分の家来にする。そして滅茶苦茶にコキ使う。厭なことばかしさせる。終いにはさすがの悪魔も堪え難くなって、婆さんの処を逃げ出す。そして大きな石の下なぞに息を殺して隠れて居る。すると婆さんが捜しに来る。そして大きな石をあげて見る、――いや・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ と早々石川様から御家来をもちまして、書面に認め、此の段町奉行所へ訴えました。正直の首に神宿るとの譬で、七兵衞は図らず泥の中から一枚の黄金を獲ましたというお目出度いお話でございます。・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・ここへはいって家来にしておもらいなさい。」と言いました。ウイリイは、すぐに、王さまのうまやの頭のところへいって、「どうか私を使って下さいませんか。」とたのみました。「ただ私の馬のかいばさえいただきませば、給料なぞは下さらなくともたく・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・と言って、すぐに家来になりました。 二人はそれからしばらく、てくてく歩いていきますと、こんどは向うから、まるで棒のようにやせた、ひょろ長い男が出て来ました。王子は、「おや、へんなやつが来たぞ。」と思いながらそばへいって、「もしも・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・むかし、このへん一帯はひろびろした海であったそうで、義経が家来たちを連れて北へ北へと亡命して行って、はるか蝦夷の土地へ渡ろうとここを船でとおったということである。そのとき、彼等の船が此の山脈へ衝突した。突きあたった跡がいまでも残っている。山・・・ 太宰治 「魚服記」
・・・「俺は、しかし何も、お前の兄貴の家来になりたがっている、というわけじゃないんだよ。そんなに、この俺を見下げ果ててもらっては困るよ。お前の家だって、先祖をただせば油売りだったんだ。知っているか。俺は、俺の家の婆から聞いた。油一合買ってくれ・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・何を話しているかはわからなかったが、ただ一瞥でその時に感ぜられたことは、その日本の紳士たちのその西洋人に対する態度には、あたかも昔の家来が主人に対するごとき、またある職業の女性が男性に対するごとき、何かしらそういったような、あるものがあるよ・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・あれが髭を生やして狩衣を着て楠正成の家来になってたから驚いた。 次に内容と全く独立した。と云うより内容のない芸術がありますが、あれは私にも少々分る。鷺娘がむやみに踊ったり、それから吉原仲の町へ男性、中性、女性の三性が出て来て各々特色を発・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・豊臣秀吉の家来じゃないか」と圭さん、飛んでもない事を云う。「ハハハハこいつはあきれた。華族や金持ちを豆腐屋にするだなんて、えらい事を云うが、どうも何も知らないね」「じゃ待った。少し考えるから。又右衛門だね。又右衛門、荒木又右衛門だね・・・ 夏目漱石 「二百十日」
出典:青空文庫