・・・ 大瀧のひろ子、基、倉知の子のことを思いあわれになり、国男、スエ子、英男、自分が母を生みの母を持つことの幸福をしみじみと思った。家計が立てば、子には父より母だ。ひろ子の実際的な、感情の流露しない大人びたところを思うとあわれ。又、倉知の子・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・ 父が外遊中、家計はひどくつましくて、私たちのおやつは、池の端の何とかいう店の軽焼や、小さい円形ビスケット二十個。或はおにぎりで、上野の動物園にゆくとき、いつもその前のおひるはお握りだった。母はずっとあとになってからでも、小さい子供たち・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・その税を、どういう懐の中から捻出してゆかなければならないかといえば、千八百円ベースあるいは二千四百円ベースの家計の中からです。通勤・通学のための交通費のおそろしいはね上り、またこの夏から一段とひどくなった諸物価のはねあがり。婦人靴下一足千何・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・ 物資の問題と家計の配慮は、特別女の日常には切実で、そのことでは、一般的な共感におかれているわけだが、文化のこととしてこの間の消息を眺めると、ここにも奇妙な現象がある。女子大学の家政科というようなところで、生計指導のための展覧会を行った・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・七月に経済白書というものを発表して日本の生産経済の破産状態を告白した政府は、千八百円ベースをきめて、十一月には国民家計が三百円ほど黒字になるといった。ところが十一月には、あがった丸公につれてヤミまであがって、ヤミ買を拒絶した山口判事の死がつ・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・ 自分が現代の日本の恐ろしい窮乏にある農村の、しかも小地主の高等教育をうけた娘であるという事実、そのような娘との交渉においていろいろ家計のやりくりなどと絡んで動く田舎の親戚達の感情、その表現としての微妙な仕うちというようなものは、農村と・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・そうだとすれば、どこの家の家計簿も、やすやすと世帯主三〇〇円、一人ます毎の一〇〇円也の預金引出しを算出しかねるわけである。この一点からも、モラトリアムで本当に困るのは、やっぱり金を持たぬ多数者というこれまで政府がとって来たおなじ方向の一つな・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
・・・同じ常識の埒の中に暮らしても外で働いて経済的に自分の主人となっている男の生活は、あてがわれた家計の中で今のような世の中に辛苦することだけで明けそして暮れてゆく女の実際とは何といっても違ったところがある。 私たちは、そんな辛苦はつまらない・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・けれども、今日多くの若い職業婦人が大衆の貧困化から強いられて来ているように、家計の支持者であるとしたら、困難は実に大きい。若いサラリーマンの給料は妻を扶養するのもむずかしく思われるほどだのに、ましてその家族の負担などは考えることもできまい。・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・こうも落ちつく暇のない毎日の間に、隣組からの強制貯金とか、厖大な数字に上る国債の消化とかいう仕事も、つまるところは一家の主婦、さもなければ、家計を援けて働いている女子の勤労者のやりくりに、解決を俟つ有様となった。家庭から先ず男が戦線に奪われ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫