・・・当時のロシアの民衆の生活はゴーリキイの幼年時代によって明らかなように野蛮な暗い農奴制ののこりものである家長制に圧しつけられていた。農民、労働者の間に個性の自由や恋愛ののびのびした開花は無智と窮乏によって、貴族と小市民との間にあっては封建的な・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・そして、婦人は、世界史的に、原始の自然な女としてののびやかさを失い、家長、その父、その兄、その良人、その息子に従属する存在となり、一種の私有される家財めいた存在となったのであった。 こうして読めば、これは実に太古の社会史の一節である。人・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・文学にまで及んだ家長制について深く考えさせるものがある。 関村つる子、由起しげ子などの人々は、もう久しくつづけて来た文学の勉強の結果を、こんにち発表しはじめている。それほど久しい間婦人の、人間としての社会的発想は、抑えられつづけて来たの・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 家長専制の当時のロシアの上流中流社会で、娘が親を矯正することは不可能だった。 ソーニア・コレフスカヤのように、勇敢なインテリゲンツィアの若い婦人たちは、医学を勉強しようとして、科学を勉強するためにさえ家出しなければならなかった。家・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・トルストイの世界観の中では、母と子の関係が人間生活に於ける宗教的な道徳的償いという意味をこめて、歴史的には封建的家長制度的な固い絆でくくりつけられている。このことは「アンナ・カレーニナ」にも現れているし、「戦争と平和」の中に、アンドレー老公・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・が、この鋭い刺のあるような緑色の眼をした老人は、一目見たときからゴーリキイの心に本能的な憎みを射込んだと同時に、この祖父を家長といただいて生活する伯父二人とその妻子、祖母さんに母親、職人達という一大家族の日暮しは、幼いゴーリキイにとって悪夢・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ マクシム・ゴーリキイが五つで父に死なれて後、引取られて育った祖父の家の生活は、無知と野蛮と、家長の専制とで、恐るべく苦しいものであった。農奴解放は行われたが、その頃のニージュニ・ノヴゴロドの下層小市民の日常生活の中心では、まだ子供を樺・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・が、この鋭い刺のあるような緑色の眼をした老人は、一目見たときからゴーリキイの心に何か本能的な憎しみを射込んだと同時に、この祖父を家長といただいて生活する伯父二人とその妻子、祖母さんに母親、職人達という一大家族の日暮しの有様は、全く幼いゴーリ・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫