・・・ 磯は黙って煙草をふかしていたが、煙管をポンと強く打いて、膳を引寄せ手盛で飯を食い初めた。ただ白湯を打かけてザクザク流し込むのだが、それが如何にも美味そうであった。 お源は亭主のこの所為に気を呑れて黙って見ていたが山盛五六杯食って、・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・いわゆる一ト筋を通し、一ト流れを守って、画なら画で何派の誰を中心にしたところとか、陶器なら陶器で何窯の何時頃とか、書なら書で儒者の誰とか、蒔絵なら蒔絵で極古いところとか近いところとか、というように心を寄せ手を掛ける。この「筋の通った蒐集研究・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・壁の上よりは、ありとある弓を伏せて蝟の如く寄手の鼻頭に、鉤と曲る鏃を集める。空を行く長き箭の、一矢毎に鳴りを起せば数千の鳴りは一と塊りとなって、地上に蠢く黒影の響に和して、時ならぬ物音に、沖の鴎を驚かす。狂えるは鳥のみならず。秋の夕日を受け・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
出典:青空文庫