・・・蟹や寄生貝は眩ゆい干潟を右往左往に歩いている。浪は今彼の前へ一ふさの海草を運んで来た。あの喇叭に似ているのもやはり法螺貝と云うのであろうか? この砂の中に隠れているのは浅蜊と云う貝に違いない。…… 保吉の享楽は壮大だった。けれどもこう云・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・そうして、広大な植民地と市場を独占した資本家は、自分では何等働かずに、搾取によって寄生的な生活をする。「資本主義は、極く少数の特に富有で強力な国家を極端まで押しやり、それらの少数国家は、世界住民の約十分ノ一か、多く見積って高々五分ノ一しか擁・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・程度の差はあるけれども、僕たちはブルジョアジイに寄生している。それは確かだ。だがそれはブルジョアジイを支持しているのとはぜんぜん意味が違うのだ。一のプロレタリアアトへの貢献と、九のブルジョアジイへの貢献と君は言ったが、何を指してブルジョアジ・・・ 太宰治 「葉」
・・・皮膚に寄生する虫の標本が、蟹くらいの大きさに模型されて、ずらりと棚に並んで、飾られてあって、ばか! と大声で叫んで棍棒もって滅茶苦茶に粉砕したい気持でございました。それから三日も、私は寝ぐるしく、なんだか痒く、ごはんもおいしくございませんで・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・たいていの花では子房が花の中央に君臨しているものと思っていたのに、この植物ではおしべが中軸にのさばっていてめしべのほうが片わきに寄生したようにくっついているのである。ところが、また別の茎を取って点検してみると、花が盛りを過ぎてすでに受胎を終・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
大正十二年八月二十四日 曇、後驟雨 子供等と志村の家へ行った。崖下の田圃路で南蛮ぎせるという寄生植物を沢山採集した。加藤首相痼疾急変して薨去。八月二十五日 晴 日本橋で散弾二斤買う。ランプの台に入れるため。・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・どうしてこの洋品部が丸善に寄生あるいは共生しているかという疑問を出した時にP君はこんな事を言った。「書物は精神の外套であり、ネクタイでありブラシであり歯みがきではないか、ある人には猿股でありステッキではないか。」こう言われてみればそうである・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ 要するに、従来のいわゆる統計物理学は物理学の一方の庇を借りた寄生物であったのであるが、今ではこの店子に主家を明け渡す時節が到来しつつあるのではないか。ほんとうの新統計的物理学はこれから始まるべきではないか。これはもちろん筆者のはなはだ・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・汚れをいとわないとか、古くさい結婚の形にしばられない感情の冒険とかいうことの現実をみると、結局は社会の経済生活の崩壊による女性の男への寄生的生活の合理化であり、広汎な売娼生活の合理化だということが分ります。 五 人民的・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 無理がとおれば道理がひっこむ、といういろは歌留多の悲しい昔ながらの物わかりよさが、感傷をともなった受動性・屈伏性として、急進的な大衆の胸の底にも微妙な形に寄生している。プロレタリア作家が腹の中でその虫にたかられている実証は、「白夜」そ・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫