・・・たとえば今、日本大政府の諸省に用うる十露盤も、寒村僻邑の小店に用うる十露盤も、乗除の声に異同なきは、上下の勘定法に関所なきものなり。帳合の法もかくありたきことと余輩の願う所なり。あるいはまた前の如く、二五八三と記すを不便なりといえば、平たく・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ ヴィタミンABCでなじみぶかい理研のコンツェルンは、工学博士、子爵大河内正敏氏その他を主として、長野や群馬、新潟などの寒村に、「共同作業場ともいえないくらいの小さな作業場」をつくり都会の大工場で同じ機械を使って造り出す能率の二倍以上の・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・それらについて知らなかったけれども、子供の頃より折々そこに暮して、村の街道の赭土に深くきざみつけられた轍のあとまで眼と心にしみついている東北の一寒村の人々の生活の感銘から、この小説をかいたのであった。 当時、日本の文学は、白樺派の人道主・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・被検挙者中には、大森義太郎、向坂逸郎、猪俣津南雄、山川均、荒畑寒村等の諸氏がある。末次内務大臣は、大学専門学校等の周囲三百米から喫茶店、ビリヤード、マージャン等の店を撤廃するように命じ、従来の自由主義的な学生の取締方法を変更するべきことをす・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ この八百枚余の長篇小説の舞台として津軽のとっぱな十三潟附近の寒村がとりあげられている。程ケ谷の紡績工場から故郷のその村に向って汽車にのっているヨシノとサダ子につれられて、二人の娘の気質の相異を理解しながら、読者は次第に北国へ向い、・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・僧院に向う途中、トルストイはアスタポヴォという寒村の小駅で、急に肺炎をおこして亡くなったのであった。 レフ・トルストイは、全生涯を賭して解決し得なかった諸矛盾のまことに正直な、潔白な負い手として傷つきながら、「自分にとったより遙かに多く・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・ オオドゥウは中部フランスの寒村に生れた孤児であった。育児院で育てられて、十三歳からノロオニュの農家の雇娘で羊飼いをした。巴里へ出てからは十九歳の裁縫女として十二時間労働をし、そのひどい生活からやがて眼を悪くして後、彼女は自家で生計のた・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・『改造』の附録の方の翻訳署名責任者として荒畑寒村氏が、最後に「訳者の言葉」を附し、この四六判二百九十余頁に亙るトロツキーの「絢爛たる文彩、迫撃砲の如き論調、山積せる材料、苛辣なる皮肉」が結局「どんなに善意に解釈しても、ソヴィエットの社会主義・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・祖母が福島県の寒村に住んでいて、私は殆ど毎年夏休みはそちらで、裸足で、どこの百姓家の土間へも、鶏にくっついて入って行くような暮しかたをした。その間に見た農村の生活が強烈な印象を与え、自然発生的に書いたのであった。はじめ「農村」という題で三百・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
出典:青空文庫