・・・ 薔薇液を身に浴び、華奢な寛衣をまとい、寝起きの珈琲を啜りながら、跪拝するバガボンドに流眄をする女は、決して、その情調を一個の芸術家として味って居るのではございません。 こちらの婦人の華美と、果を知らぬ奢沢は、美そのものに憧れるので・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・私の寝起きは、不規則になり勝ちなので、疲れて居る者の邪魔をするのは気の毒であり、気兼ねをするのも、時には不自由に感じますから。 寝室は、寝台、低いゆったりと鏡のついた化粧台。衣裳箪笥。壁はどんな色がよいか。此と云う思いつきもありませんけ・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・母とはいとこ同士で、向島で暮した娘時代共に寝起きしたお登世さんという従姉をのぞいて、おそらく母が誰よりも親しんだ女いとこの一人ではなかっただろうか。 その家の若い令嬢として、お孝さんは、私たち子供連のことも、おそらくは大磯のことも、きっ・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ 若い男と女とが一つ寄宿舎の建物に寝起きするのだから、勿論時にはいろいろの問題がおこることもある。 そういうとき、場合によっては寄宿舎の大衆討論の決議で、事件は決定される。また、幼年時代から学校で、職場で共に働いている今のソヴェト同・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・その殿上人は、女の人は寝起きの顔がことの外美しいと聞いていたから見に来たのですよ。帝がいらしたうちからここにいました、といったことなどが作者の当時の官女らしい才気の反応で描かれている。 この朝の出来事を書いているとき、作者は帝と中宮とが・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・そのころわたくしどもは北山の掘立小屋同様の所に寝起きをいたして、紙屋川の橋を渡って織場へ通っておりましたが、わたくしが暮れてから、食べ物などを買って帰ると、弟は待ち受けていて、わたくしを一人でかせがせてはすまないすまないと申しておりました。・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫