・・・そういう対話を主人公との間に交します。当時あのように禁じられていた話題をとりあげる以上は、主人公がリベラリストであるという裏書をその国民学校の先生の話によって与えさせている。手のこんだアリバイの示しかたです。 ここに「北岸部隊」というも・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・p.243○彼の作品の冗漫性にある意味――事件の骨骼の下に、対話の肌の下にこうも 神経を一貫したような物語の体系をもたない。p.245○限界のない人間は永遠のものに到達出来るけれども、模索することは出来ない p.246 芸術・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・ それから、ブランクになって居る対話の部、あすこもやめたいと思います。何だか女学世界のようで私の好みに反しますから。 点とりは、生憎非常に多忙なので、ゆっくりあれで遊んで居られません。勝手ですがあのまま御返し申します。二つの大きな消・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ 一、それ等の間にも雲が切れたように親子の情は動く。対話、母の父に対する感情等、 一、翌年五月 又安積、会田 祖母。Aよりの手紙その他 一、夏、福井、あの家、二階 仕事盆踊。渡辺。なまずとり。急な帰京 一、作についての衝突、・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(一)」
・・・それが済んだ跡で、子爵と秀麿との間に、こんな対話があった。 子爵は袴を着けて据わって、刻煙草を煙管で飲んでいたが、痩せた顔の目の縁に、皺を沢山寄せて、嬉しげに息子をじっと見て、只一言「どうだ」と云った。「はい」と父の顔を見返しながら・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・大抵津藤さんは人の対話の内に潜んでいて形を現さない。それがめずらしく形を現したのは、梅暦の千藤である。千葉の藤兵衛である。 当時小倉袴仲間の通人がわたくしに教えて云った。「あれは摂津国屋藤次郎と云う実在の人物だそうだよ」と。モデエルと云・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・ 二人の子供は、はずんで来る対話の調子を気にして、潮汲み女のそばへ寄ったので、女中と三人で女を取り巻いた形になった。 潮汲み女は言った。「いいえ。信者が多くて人気のいい土地ですが、国守の掟だからしかたがありません。もうあそこに」と言・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・ 僕は暫く依田さんと青年との対話を聞いているうちに、その青年が壮士俳優だと云うことを知った。俳優は依田さんの意を迎えて、「なんでもこれからの俳優は書見をいたさなくてはなりません」などと云っている。そしてそう云っている態度と、読書と云うも・・・ 森鴎外 「百物語」
この対話に出づる人物は 貴夫人 男の二人なり。作者が女とも女子とも云わずして、貴夫人と云うは、その人の性を指すと同時に、齢をも指せるなり。この貴夫人と云う詞は、女の生涯のうちある五年間を指す・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・従って先生は対話の場合かなり無遠慮に露骨に突っ込んで来るにかかわらず、問題が自分なり相手なりの深みに触れて来ると、すぐに言葉を転じてしまう。そうして手ざわりのいい諧謔をもって柔らかくその問題を包む。これらの所に先生の温情と厭世観との結合した・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫