・・・のではない、死を避け得べしとも思って居ない、恐らくは彼等の中に一人でも、永遠の命は愚か、伯大隈の如くに百二十五歳まで生き得べしと期待し、生きたいと希望して居る者すらあるまい、否な百歳・九十歳・八十歳の寿命すらも、先ずは六かしいと諦らめてるの・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・私の悪徳が、北さんの寿命をたしかに十年ちぢめたのである。そうして私ひとりは、相も変らず、のほほん顔。 太宰治 「帰去来」
・・・一族から、このような大病人がひとり出たばかりに、私の身内の者たちは、皆痩せて、一様に少しずつ寿命をちぢめたようだ。死にやいいんだ。つまらんものを書いて、佳作だの何だのと、軽薄におだてられたいばかりに、身内の者の寿命をちぢめるとは、憎みても余・・・ 太宰治 「父」
・・・それで、かりに猫の十分の一秒が人間の一秒に相当すると、ねこの寿命が八年ならば人間にとっては八十年に相当する勘定になる。どちらが長生きだかちょっとわからない。 これは書物で読んだことだが、樫鳥や山鳩や山鴫のような鳥類が目にも止まらぬような・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・それで、仮りに猫の十分の一秒が人間の一秒に相当すると、猫の寿命が八年ならば人間にとっては八十年に相当する勘定になる。どちらが長生きだかちょっと判らない。 これは書物で読んだことだが、樫鳥や山鳩や山鴫のような鳥類が目にも止まらぬような急速・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 三 身長と寿命 地震研究所のI博士が近ごろ地震に対しての人体感覚の限度に関する研究の結果を発表した。特別な設計をした振動台の上に固定された椅子に被試験者を腰掛けさせ、そうしてその台にある一定週期の振動を与えながらそ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ ただもし、百年に一回あるかなしの非常の場合に備えるために、特別の大きな施設を平時に用意するという事が、寿命の短い個人や為政者にとって無意味だと云う人があらば、それはまた全く別の問題になる。そしてこれは実に容易ならぬ問題である。この問題・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・たとえば人間の寿命を百歳以上に延長するとか、男女の性を取り換えるとかいう種類の空想はそうにわかに否定することのできない種類に属する。しかし「不可視人間」の空想はこれとはよほど趣を異にしている。 いったい「物体」が存在するということは、換・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・しかしランプの方の保存期限が心の一本の寿命よりも短いのだとすると心細い。 このランプに比べてみると、実際アメリカ出来の台所用ランプはよく出来ている。粗末なようでも、急所がしっかりしている。すべてが使用の目的を明確に眼前に置いて設計され製・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・蝋管記録の寿命はせいぜい千回ぐらいであるのに平円盤の原型の寿命はほとんど永久であると言ってもよい。それでたとえば現在のある国語の発音を記録しておいて百年千年万年の後のものと比較してその変遷を調べる事もできるので、実際そういう目的で保存されて・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
出典:青空文庫