・・・虹吉が満足したのは、彼の本能的な実弾射撃が、てき面に、一番手ッ取り早く、功を奏したからである。 朝五時から、十二時まで、四人の親子は、無神経な動物のように野良で働きつゞけた。働くということ以外には、何も考えなかった。精米所の汽笛で、やっ・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ 吉田は銃をとって、近づいて来る奴を、ねらって射撃しだした。小村も銃をとった。しかし二人は、兎をうつ時のように、微笑むような心持で、楽々と発射する訳には行かなかった。ねらいをきめても、手さきが顫えて銃が思う通りにならなかった。十発足らず・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・わたくしはあなたが、たびたび拳銃で射撃をなさる事を承っています。わたくしはこれまで武器と云うものを手にした事がありませんから、あなたのお腕前がどれだけあろうとも、拳銃射撃は、わたくしよりあなたの方がお上手だと信じます。 だから、わたくし・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・の雑誌の性質上、サロンの出いりも繁く、席上、太宰さんの噂など出ますけれど、そのような時には、春田、夏田になってしまって熱狂の身ぶりよろしく、筆にするに忍びぬ下劣の形容詞を一分間二十発くらいの割合いで猛射撃。可成りの変質者なのです。以後、浮気・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ツネちゃんは僕たちが射撃をはじめると、たいてい標的のあたりにうろうろしていて、弾を拾ったり、標的の位置を直したりするのだが、いつもはそんな目ざわりなんて思った事は無かった。しかしその時は、雀の標的のすぐ傍に立って笑っているツネちゃんが、ひど・・・ 太宰治 「雀」
・・・銃砲より先にカメラの射撃が始まるのである。白熊は、自分の毛皮から放射する光線が遠方のカメラのレンズの中に集約されて感光フィルムの上に隠像の記録を作っていることなどは夢にも知らないで、罪のない好奇と驚異の眼をこの浮き島の上の残忍な屠殺者の群れ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 宇宙のどこの果てからとも知れず、肉眼にも顕微鏡にも見えない微粒子のようなものが飛んで来て、それが地球上のあらゆるものを射撃し貫通しているのに、われわれ愚かなる人間は近ごろまでそういうものの存在を夢にも知らないでいたのである。その存在を・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・それで約一キロメートル前方の山腹で一斉射撃の煙が見えたら、それから一秒余おくれて弾が来て、それからまた二秒近くおくれて、はじめて音が聞こえるわけである。こんな事もトーキーの場合には問題になりうるであろう。 音と光との回折や透過に関する差・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・登場する人物は少数のイタリー指揮官と、銃を与えられて、整列すること、敬礼すること、同じ黒い皮膚を持った沙丘の彼方の土民を射撃することを正当化されているリビヤ土人の一隊である。人間再出発の重大なモメントである土民との接触の面は、この映画で軍事・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ベズィメンスキーの「射撃」「変人」。リベディンスキーの「英雄の誕生」等がある。 これらは、工場内の官僚主義に対する諷刺、プロレタリア技術発展への翹望、小ブルジョア的感傷、淫酒、淫煙の排撃。工場内ウダールニクを組織しようとする若い労働者た・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫