・・・しかし多分子的現象に遭遇して止むを得ず統計的の理論を導入した。統計的現象の存在は永久的の事実である。 決定的あるいは統計的の予報が可能であるとした場合に、その効果如何という事は別問題である。今ここにこのデリケートな問題を論じる事は困難で・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・熱力学にエントロピーの観念の導入され、またエントロピーと公算との結合を見るに至りし消息もまたここに至って自ずから首肯さるべし。 安定や公算の意味に関する議論はしばらく措き、種々の可能法ある場合におのおのの公算を比較する時、吾人の経験はそ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 容疑者の容疑をもう一段強めるために、もう一つのエピソードを導入したいので次のような仕かけを考えたものである。この挿話の主人公夫婦として現われる二人の俳優の演技が老巧なためにこれが相当な効果をあげているようである。 銀座を追われた靴・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・空間座標のほかに時を入れれば運動学が成立し、これに質量を入れて経験の結果を導入すれば力学ができる。これらの数学的の式における時間tが空間 x y z とほとんど同様に取り扱われうる事はミンコフスキーの四元空間 Welt の構成されるのを見て・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・一方では季題や去り嫌いや打ち越しなどに関する連句的制約をある程度まで導入して進行の沈滞を防ぎ楽章的な形式の斉整を保つと同時に、また映画の編集法連結法に関するいろいろの効果的様式を取り入れて一編の波瀾曲折を豊富にするという案である。 なん・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・少なくも人間の思想が進化し新しい観念や概念が絶えず導入され、また人間の知恵が進歩して新しい事物が絶えず供給されている間は新しい俳句の種の尽きる心配は決してないであろう。 話が少し横道にそれてしまったが、ここで言わんとしたことは、俳句が最・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ 原子の構造とその性能に関してわれわれは個々のエネルギー水準の考えを導入した。しかしてそれはある方程式の固有値と称するものと連関していると考える。これは最も簡単な類型的の一例とさるる弦の振動の場合ならばその節点の数を決定するものであり、・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・を持って来た上に「かますご」を導入したのは結構であるが、彼の頭にはおそらくこの「夕飯のかますご」が膠着していてそれから六句目の自分の当番になって「宵々」の「あつ風呂」が出現した感がある。また同じ「夕飯」がまだまだ根を引いて「木曾の酢茎」に再・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・「彼が自分のドラマの中に導入した凡ての荒唐無稽さにも拘らず『マクベス』はそれでも中世紀のゴシック風の寺院の如く巨大なる、絶大なる作品である」「人類の全世界史的発達の各々の瞬間は、同様に豊富なる収穫を詩のために与えるものだということの証拠・・・ 宮本百合子 「ベリンスキーの眼力」
出典:青空文庫