・・・二十七八の色の青い小作りの中年増で、髪を櫛巻にしている。昨夜私の隣に寝ていた夫婦者の女房だ。私の顔を見ると、「お早う。」と愛相よく挨拶しながら、上り口でちょっと隣の部屋の寝床を覗いて、「まだ寝てるよ。銭占屋の兄さん、もう九時だよ。」「九・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・けれどもその二十年後の今、自分の眼の前に現れた小作りな老師は、二十年前と大して変ってはいなかった。ただ心持色が白くなったのと、年のせいか顔にどこか愛嬌がついたのが自分の予期と少し異なるだけで、他は昔のままのS禅師であった。「私ももう直五・・・ 夏目漱石 「初秋の一日」
・・・ 印度人の小作りなのが揃って、唯灰色に荒れ狂うスクリーンの中で、鑿岩機を運転しているのであった。 ジャックハムマーも、ライナーも、十台の飛行機が低空飛行をでも為ているように、素晴らしい勢で圧搾空気を、ルブから吹き出した。 コムプ・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・ みわは、そう言いながら煎じ薬を茶碗についで母にすすめた。「なに、御自分がわるいのさ――お前にはとんだお気の毒だね、こんなとこまで来て水汲みまでさせちゃ」 みわは、小作りな女で何だか見当が違っているような眼つきであった。「ま・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
・・・目の前の堤にかけ登って、ずっと遠くの野を展望した一人の消防夫の小作りな黒い影絵の印象を、恐らく私は生涯忘れないだろう。列車の下から追い出したのが何であったか、それをどう始末したか、結着のつかないうちに、汽車は前進し始めた。 高崎から、段・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫