・・・ 世間は、春風に大きく暖く吹かるる中を、一人陰になって霜げながら、貧しい場末の町端から、山裾の浅い谿に、小流の畝々と、次第高に、何ヶ寺も皆日蓮宗の寺が続いて、天満宮、清正公、弁財天、鬼子母神、七面大明神、妙見宮、寺々に祭った神仏を、日課・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・ 山沿の根笹に小流が走る。一方は、日当の背戸を横手に取って、次第疎に藁屋がある、中に半農――この潟に漁って活計とするものは、三百人を越すと聞くから、あるいは半漁師――少しばかり商いもする――藁屋草履は、ふかし芋とこの店に並べてあった――・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・ 白い、静な、曇った日に、山吹も色が浅い、小流に、苔蒸した石の橋が架って、その奥に大きくはありませんが深く神寂びた社があって、大木の杉がすらすらと杉なりに並んでいます。入口の石の鳥居の左に、とりわけ暗く聳えた杉の下に、形はつい通りであり・・・ 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・ 畑の裾は、町裏の、ごみごみした町家、農家が入乱れて、樹立がくれに、小流を包んで、ずっと遠く続いたのは、山中道で、そこは雲の加減で、陽が薄赤く颯と射す。 色も空も一淀みする、この日溜りの三角畑の上ばかり、雲の瀬に紅の葉が柵むように、・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・一方、杉の生垣を長く、下、石垣にして、その根を小流走る。石垣にサフランの花咲き、雑草生ゆ。垣の内、新緑にして柳一本、道を覗きて枝垂る。背景勝手に、紫の木蓮あるもよし。よろず屋の店と、生垣との間、逕をあまして、あとすべて未だ耕さざる水田一・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・子供が小流で何か釣っている。「鮒か。」「ウン。」精の友達らしい。いつの間にか要太郎が見えなくなったと思うていると遥か向うの稲村の影から招いている。汗をふきふきついて行った。道の上で稲を扱いている。「御免なさいよ。」「アイ御邪魔でございます。・・・ 寺田寅彦 「鴫つき」
出典:青空文庫