・・・ 物臭さそうに看守は肩から立ち上って、「小父さァん」と小使いを呼んだ。 三日ばかりで、組合の男の同志は月島署へまわされた。 看守が残った女の同志に、「君ァ、鳩ぽっぽかと思ってたらどうしてなかなか偉いんだそうじゃないか」・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 小父貴にでもそれを云われたらともかく一応はふくれるにちがいない娘さんたちが、それと同じ本質のことを、アナトール・フランスの言葉というようなものを引用したらしく文学のように話されれば、何かちがった瞬きようをしてきくという心は、読者の・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・残忍な生れつきの祖父と、財産あらそいばかりしている小父たち。たちのわるい残酷ないたずらをするのが日課であるいとこたち。ゴーリキイの不安な毎日の中で、たった一つのよろこびと慰めとなったのは、おばあさんでした。昔話が此上なく上手で、人間は、辛棒・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイについて」
・・・ 後に深野屋へ聞えた所に依ると、亀蔵は正月二十四日に、熊野仁郷村にいるははかたの小父林助の家に来て、置いてくれと頼んだが、林助は貧乏していて、人を置くことが出来ぬと云って、勧めて父定右衛門が許へ遣った。知人にたよろうとし、それがかなわぬ・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・それを云うと、栖方は、「あれは小父の家です。」 と云って、またぱッと笑った。茶を煎れて来た梶の妻は、栖方の小父の松屋の話が出てからは忽ち二人は特別に親しくなった。その地方の細かい双方の話題が暫く高田と梶とを捨てて賑やかになっていくう・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ こんな優しい声で小父がいうと、けちんぼだといわれている伯母が拾銭丸をひねった紙包を私の手に握らせた。ここには大きな二人の姉弟があったが、この二人も私を誰よりも愛してくれた。 三番目の伯母は、私たちが東京から来たとき厄介になった伯母・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫