・・・ 折鞄を小脇にかかえた日本服の商人、米国風の背広を着た男達。彼等は車道のすぐ傍を、同じように落付かない洋服姿の男等が膝かけなしで俥に乗り、カラカラ、カラと鈴をならして駆けさせるのを見ないふりで、速足に前へ前へと追い抜いて行く。 女は・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ 鞁鳥打帽の下で外套の襟を深く立て、物がつまりすぎてパチンも満足にかからない書類入鞄を小脇にかかえ、わき目もふらずポケットへ手をつっこんで歩いて行く男や女――これは至極ありふれた文明国の恰好だ。が、ひとつ目につく情景がある。いかにも役所・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・鞄を小脇に抱えた連中が盛に出入りする、青い技師の制帽をかぶったのも来る。主任は日本の女がモスクワから遠い炭坑を見学に来たのを珍しがって忙しいにもかかわらず、「あなたはどうしてドン・バスを見学する気になったんですか?」と私に向って訊い・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ 赤羅紗服地の見本みたいに念の入った恰好をした英国の兵士達が剣がわりの杖を小脇に挾みながら人通の繁いハイド・パアク・コオナアで横目を使った。そこでは乗合自動車を降りるとその足で真直「婦人用」と札の下った公園の鉄柵中へ行く女は大勢ある。・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫