・・・相手の坂田もそれに輪をかけた脱俗振りで、対局中むつかしい局面になると、「さあ、おもろなって来た。花田はん、ここはむつかしいとこだっせ。あんたも間違えんようしっかり考えなはれや」と相手をいたわるような春風駘蕩の口を利いたりした。 けれ・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・いわゆる多で、新思想を導いた蘭学者にせよ、局面打破を事とした勤王攘夷の処士にせよ、時の権力からいえば謀叛人であった。彼らが千荊万棘を蹈えた艱難辛苦――中々一朝一夕に説き尽せるものではない。明治の今日に生を享くる我らは維新の志士の苦心を十分に・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・人生の全局面を蔽う大輪廓を描いて、未来をその中に追い込もうとするよりも、茫漠たる輪廓中の一小片を堅固に把持して、其処に自然主義の恒久を認識してもらう方が彼らのために得策ではなかろうかと思う。――明治四三、七、二三『東京朝日新聞』――・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・だから日本歴史全部のうちで尤も先生の心を刺戟したものは、日本人がどうして西洋と接触し始めて、またその影響がどう働らいて、黒船着後に至って全局面の劇変を引き起したかという点にあったものと見える。それを一通り調べてもまだ足らぬ所があるので、やは・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・とにかく走者多き時は人は右に走り左に走り球は前に飛び後に飛び局面忽然変化して観者をしてその要を得ざらしむることあり。球戯を観る者は球を観るべし。○ベースボールの防者 防禦の地にある者すなわち遊技場中に立つ者の役目を説明すべし。攫者は常に・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・ ファッシズムへの抵抗、平和擁護の一つをとってみても日本の人民的民主主義の全局面が、現在どんなに国際的条件にかかわりあって来ているかがよくわかる。 異国趣味を通じて、より進んだと信じられている文化形態を通じて、民族の人民的文化の質が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・そういう愛情は日本の社会でいわば公認の愛の局面であるが、自分に向けられる母の愛、気づかい、心配などを、有難いとともに漠然負担に感じないで暮している娘さんたちが今日はたして何人あるだろうか。日本の女の自己犠牲の深さということを一方においてみる・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・なるほど、科学の本としてとりあげられている題目は重要であるが、書き方は子供の印象に入りやすい方法で、従って局面も限って触れられている。この本に書いてあるほどのことなら、文化に関心をもっている大人が、一人のこさず皆知っているといえるだろうか。・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・その共感にひかされて、三好十郎の毒舌も、しまいはブツブツ、現在の肉体派や中間小説が、現代文学の新しい局面を展くためには、無益であるばかりか有害でさえあるという事実を批判しきれなかった。 その討論の時期に、伊藤整も東京新聞の文芸欄で発言し・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・しかし、左翼作家のすべてがそのような大主題を、解放史の全局面から把握し、而も素晴らしい新手法で芸術品に仕上げる程の才能をもって生れているとは云えない。ファジェーエフの「壊滅」、ショーロホフの「静かなドン」などはよい作品だが、国内戦は局部的に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫