・・・をくらい、一種滋蔓して、民毒害を被る、というのも心の二字が祇尼法の如く思えるところから考えると、なかなか古いもので、今昔物語に外術とあるものもやはり外法と同じく祇尼法らしいから、随分と索隠行怪の徒には輾転伝受されていたのだろうと思われる。伝・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ など低く口に出して言ってみたりして、床の中で輾転しているのである。泥酔して寝ると、いつもきまって夜中に覚醒し、このようなやりきれない刑罰の二、三時間を神から与えられるのが、私のこれまでの、ならわしになっているのだ。「すこしでも、眠らな・・・ 太宰治 「母」
・・・舞い狂う、あの無量無数の言葉の洪水が、今宵は、また、なんとしたことか、雪のまったく降りやんでしまった空のように、ただ、からっとしていて、私ひとりのこされ、いっそ石になりたいくらいの羞恥の念でいたずらに輾転している。手も届かぬ遠くの空を飛んで・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・ 無意識に輾転反側した。 故郷のことを思わぬではない、母や妻のことを悲しまぬではない。この身がこうして死ななければならぬかと嘆かぬではない。けれど悲嘆や、追憶や、空想や、そんなものはどうでもよい。疼痛、疼痛、その絶大な力と戦わねばな・・・ 田山花袋 「一兵卒」
出典:青空文庫