・・・また、人の天然において奇異を好むは、その性なり。山国の人は海を見て悦び、海辺の人は山を見て楽しむ。生来、その耳目に慣れずして奇異なればなり。而してそのこれを悦び、これを楽しむの情は、その慣れざるのはなはだしきにしたがってますます切にして、往・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・あったがその国に一人の男があって王の愛犬を殺すという騒ぎが起った、その罪でもってこの者は死刑に処せられたばかりでなく、次の世には粟散辺土の日本という島の信州という寒い国の犬と生れ変った、ところが信州は山国で肴などという者はないので、この犬は・・・ 正岡子規 「犬」
・・・遅い山国の春にも紅梅が咲き、雪が解け、やがて猫やなぎがほほけ、つくしがのび、再び蓮華草の田がすきかえされ、初雷の聞こえるころになる。その間の数多い歌が、実に豊かに山村の風物を描き出している。しかもその歌がそれぞれに玉のように美しい。実に得難・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・しかし彼らが社会の裏に住む無恥な女を描き、性慾の衝動に動く浮薄な男を描き、あるいは山国海辺、あるいは大都会小都会の風物情緒を描く時には、それがあらゆる階級の男女や東西南北の諸地方を材料とするにかかわらず、またそれぞれの境遇や土地をおのおのそ・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫