・・・ 一九三二年以来日本では内外の事情によってプロレタリア文学が運動としての形態と機能とを失ったことは既に知られている通りである。左翼の運動は日本の資本主義社会の特殊な人工培養性に従って全く独得な歴史を持つものであるが、プロレタリア文学・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 左翼の歴史が何故そのように急な興隆と急な退潮とを余儀なくされているかということについて、詳細にここで触れる必要のないことであろうと思うが、これ等の重大な歴史の相貌は悉く、日本がヨーロッパよりおくれて、而も独自な事情のもとに近代社会とし・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
『中央公論』の十月号に、荒木巍氏の「新しき塩」という小説がある。中学校の教師を勤めているうちに自身の少年時代の生活経験から左翼の活動に共感し、そのために職を失った魚住敬之助という男が、北海道まで行って、不良少年感化院の教師と・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・ 良人に左翼女優の比叡子という愛人が出来、妻はそれを苦しみ、愛をとり戻そうとして自分を傷けたことから誤って死んだのであったが、法廷で、この女優が、殺人をおかさせたのは自分であると云う。その心持を、人間的な感情上の責任感として、あるがまま・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・一九三三年に石坂洋次郎が、左翼への戯画としてかいた「麦死なず」と、一九五〇年に三好十郎が書いた「ストリップ・ショウ・殺意」とを見くらべれば、現代文学の傾斜が明瞭にわかる。そして、この「殺意」と「三木清における人間の研究」「たぬき退治」とは、・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・逆に闘争へ立たせるので、社会ファシストをつかって「左翼的」なかけ引きをさせ、大衆自身が内部的に統一されない気分を持つようにと悪辣な手段をつかっている。「党生活者」は敵階級のかような新手な戦術を暴露し、プロレタリアートの下からの統一戦線の重要・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・或る種の眼には実にわがもの顔に文学の領域を踏みあらしていたと思われる左翼の文学が、今やそのような形で自身への哀歌を奏している姿は、一種云うに云えない交錯した感覚であったろう。 転向文学と云われた作品はそれぞれの型の血液を流したが、それは・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ あのころ、大人気ない行動をしなかった知性から、大人気ないものとして一種の嫌悪感で見られていたのが、一握りの左翼の人々の考えかたであり、行動であった。侵略的な戦争強行に抵抗して、現実にそれを阻止する力もないのに、ひとりよがりでじたばたす・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・彼は、現在フランスでは左翼的な立場を明らかにしているジイドの発展性を見ずに不安の文学の代表者のようにかついだり、五十三年も前に死んだドストイェフスキーの作家としての特殊性、歴史性を無視して今日の日本でとやかくさわいでも、それは現実の問題とし・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・それは、母の実家が代代の勤皇家であるところへ、父が左翼で獄に入ったため、籍もろとも実家の方が栖方母子二人を奪い返してしまったことである。父母の別れていることは絶ちがたい栖方のひそかな悩みであった。しかし、梶はこの栖方の家庭上の悩みには話題を・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫