・・・あの沼は、真中が渦を巻いて底知れず水を巻込むんですって、爺さんに聞いています……」 と、銑吉の袂の端を確と取った。「行く道が分っていますか。」「ええ、身を投げようと、……二度も、三度も。」―― 欄干の折れた西の縁の出端から、・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・切れのイイ江戸弁で率直に言放すのがタダ者ならず見えたので、イツモは十日も二十日も捨置くのを、何となく気に掛ってその晩、ドウセ物にはなるまいと内心馬鹿にしながらも二、三枚めくると、ノッケから読者を旋風に巻込むような奇想天来に有繋の翁も磁石に吸・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・「井伏の小説は、決して攻めない。巻き込む。吸い込む。遠心力よりも求心力が強い。」「井伏の小説は、泣かせない。読者が泣こうとすると、ふっと切る。」「井伏の小説は、実に、逃げ足が早い。」 また、或る人は、ご叮嚀にも、モンテーニュ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
出典:青空文庫