・・・きかせて痛快がったり、他人の棚下しでめしを食ったり、することは好まぬし、関西に一人ぽっちで住んで文壇とはなれている方が心底から気楽だと思う男だが、しかし、文壇の現状がいつまでも続いて、退屈極まる作品を巻頭か巻尾にのせた文学雑誌を買ったり、技・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・が新潮社から出版せられて、私はその頃もう高等学校にはいっていたろうか、何でも夏休みで、私は故郷の生家でそれを読み、また、その短篇集の巻頭の著者近影に依って、井伏さんの渋くてこわくて、にこりともしない風貌にはじめて接し、やはり私のかねて思いは・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・ 巻頭に入れた地図は、足利で生まれ、熊谷、行田、弥勒、羽生、この狭い間にしかがいしてその足跡が至らなかった青年の一生ということを思わせたいと思ってはさんだのであった。 関東平野の人たちの中には、この『田舎教師』を手にしているのをそこ・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・の行く手の空には一団の綿雲が隆々と勢いよく盛り上がっている。あたかも沸き上がり燃え上がる大地の精気が空へ空へと集注して天上ワルハラの殿堂に流れ込んでいるような感じを与える。同じようではあるが「全線」の巻頭に現われるあの平野とその上を静かに流・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・その結果が「ロイブ古典叢書」の一冊として出版され我邦にも輸入されている。その巻頭に訳載されている「兵法家アイネアス」を冬の夜長の催眠剤のつもりで読んでみた。読んでいるうちに実に意外にも今を去る二千数百年前のギリシア人が実に巧妙な方法でしかも・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・いろいろ考えているとき座右の楽譜の巻頭にあるサン・サーンの Rondo Capriccioso という文字が目についた。こういう題もいいかと思う。しかし、ずっと前に同じような断片群にターナーの画帖から借用した Liber Studiorum・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・またその巻頭に掲載された和辻哲郎氏の「風土の現象」と題する所説と、それを序編とする同氏の近刊著書「風土」における最も独創的な全機的自然観を参照されたい。自分の上述の所説の中には和辻氏の従来すでに発表された自然と人間との関係についての多くの所・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・たとえば科学の方面で言えばネチュアーの巻頭の紹介欄のようなものでもかなり便利である。たとえいくらか批評の見地が偏する恐れはあっても、利害を離れたそれぞれの専門家の忠実な紹介である限り、勝手のわからぬ読者がとんだにせ物を押しつけられる恐れは少・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・婦人雑誌の巻頭挿画らしい色刷の絵が一枚貼ってある。ベッドが八つ。それがいろいろ様式がちがう。窓の下に一列のスチームヒーター。色々の手拭やタオルの洗濯したのがその上に干し並べてある。それらがみんな吸えるだけの熱量を吸って温かそうにふくれ上がっ・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・ そのほかの知友の中でも、中学時代からの交遊の跡を追懐した熱情のこもった弔詞を寄せられた人や、また亮が読むべくしてついに読む事のできなかった倉田氏の著書の巻頭に懇篤な追悼文を題して遺族に贈られた人もあった。 私はここでそういう人々の・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
出典:青空文庫