・・・軽焼屋の袋は一時好事家間に珍がられて俄に市価を生じたが、就中 喜兵衛の商才は淡島屋の名を広めるに少しも油断がなかった。その頃は神仏参詣が唯一の遊山であって、流行の神仏は参詣人が群集したもんだ。今と違って遊山半分でもマジメな信心気も相応に・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・これを作った百姓の喜びは、やがて、市価の下落によって反対の悲哀を見なければならない。なぜなら商人は、彼等に対して、いつまでも搾取を惜まないからです。 考えれば、いろ/\な不条理がこの社会に存しています。 こればかりでない。もし都会に・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・原稿かいて、雑誌社へ持って行っても、みんな、芥川賞もらってからのほうが、市価数倍せむことを胸算して、二ヶ月、三ヶ月、日和見、そのうちに芥川賞素通して、拙稿返送という憂目、再三ならずございました。記者諸君。芥川賞と言えば、必ず、私を思い浮べ、・・・ 太宰治 「創生記」
・・・子供らは質問するというが、七百万人の失業者のあふれたアメリカの子供、牛乳業トラストが市価つり上げのため原っぱへカンをつんで行って何千リットルという牛乳をぶちまけ、泥に吸わせ、そのために自分たちの口には牛乳が入らないでウロついているアメリカ勤・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・豊饒なカリフォルニアの果樹園で、市価がやすいために収穫がのばされている。樹の下には甘熟した果物が重なって落ちて、くさりはじめている。酔うような匂いがあたりをこめている。だが、あぶれて餓えている労働者たちは、その一つを拾って食うことも許されな・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 画商との微妙な連関で自分の画の市価というものが定り、その相場が上ることで画家としての価値をきめられている清方、栖鳳、麥僊その他の日本画大家連は、この頃の経済的ゆきづまりで彼等の高価な絵を買う人が減っても絵の価を下げられず、従ってその標・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
出典:青空文庫