・・・「今日などは侍が二三人、一度に御教に帰依しましたよ。」「それは何人でも帰依するでしょう。ただ帰依したと云う事だけならば、この国の土人は大部分悉達多の教えに帰依しています。しかし我々の力と云うのは、破壊する力ではありません。造り変える・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・巴は当初南蛮寺に住した天主教徒であったが、その後何かの事情から、DS 如来を捨てて仏門に帰依する事になった。書中に云っている所から推すと、彼は老儒の学にも造詣のある、一かどの才子だったらしい。 破提宇子の流布本は、華頂山文庫の蔵本を、明・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・あっちこち聞きあわせると、あの尼様はこの四五日前から方々の帰依者ン家をずっと廻って、一々、(私はちっと思い立つことがあって行脚に出ます。しばらく逢わぬでお暇乞じゃ。そして言っておくが、皆の衆決して私 と、そういっておあるきなすッたそ・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・の灰が貴女には妙と見えませんかと聞くから、私は何でもないというと、だから貴女は駄目だ、凡そ宇宙の物、森羅万象、妙ならざるはなく、石も木もこの灰とても面白からざるはなし、それを左様思わないのは科学の神に帰依しないのだからだ、とか何とか、難事し・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・彼の帰依者はまし、反響は大きくなった。そこで弘長元年五月十二日幕吏は突如として、彼の説法中を小町の街頭で捕えて、由比ヶ浜から船に乗せて伊豆の伊東に流した。これが彼の第二の法難であった。 この配流は日蓮の信仰を内面的に強靭にした。彼はあわ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 彼らに祖国への愛を植えつけるためには、非合理的なるものへの直観を要し、さらに彼らに神への帰依を目ひらかしむるためには、啓示への受容を説かなければならないからである。 人間教育者としてのわれわれの任務を思うとき、われわれは彼ら純真の・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・神田本同書には、「此志一上人はもとより邪天道法成就の人なる上、近頃鎌倉にて諸人奇特の思をなし、帰依浅からざる上、畠山入道諸事深く信仰頼入りて、関東にても不思議ども現じける人なり」とある。清氏はこの志一を頼んで、だぎにてんに足利義詮を祈殺そう・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・我々はかかる場合において、深く己の無力なるを知り、己を棄てて絶大の力に帰依する時、後悔の念は転じて懺悔の念となり、心は重荷を卸した如く、自ら救い、また死者に詫びることができる。『歎異抄』に「念仏はまことに浄土に生るゝ種にてやはんべるらん、ま・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・やがて そろそろ 耀きの実体が見え憧憬と帰依とが 全心を占める。真の芸術への直覚。 然し、此時多くの 友達と、所謂読者はお前を離れるだろう彼等には あまり ひためんだからあんまり 掴む あぶはち、とんぼ が ・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・もしそのような芸術至上の帰依に満ちた芸心があるならば、佐藤氏も「モスクワ」が芸術品かそうでないか位は嗅ぎわけ得て然るべきであった。或る作家が未熟で、下手で書きそこなった小説というのとは別の、本来作家でない他の何ものかであるものの書きものを、・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫