・・・それはこの時彼等の間へ、軍司令官のN将軍が、何人かの幕僚を従えながら、厳然と歩いて来たからだった。「こら、騒いではいかん。騒ぐではない。」 将軍は陣地を見渡しながら、やや錆のある声を伝えた。「こう云う狭隘な所だから、敬礼も何もせ・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・かつ淡島屋の身代は先代が作ったので、椿岳は天下の伊藤八兵衛の幕僚であっても、身代を作るよりは減らす方が上手で、養家の身代を少しも伸ばさなかったから、こういう破目となると自然淡島屋を遠ざかるのが当然であって、維新後は互に往来していても家族的関・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・とさも大本営か海軍省の幕僚でもあるような得意な顔をして、「昨夜はマンジリともしなかった。今朝も早くから飛出して今まで社に詰めていた。結局はマダ解らんが、電報が来る度毎に勝利の獲物が次第に殖えるから愉快で堪らん。社では小使給仕までが有頂天だ。・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・氏は二・二六事件の本質を、陸軍内部の国体原理主義者――皇道派と、人民覇道派――統制派との闘争とし、敗北した二・二六事件の本質を、労働者農民の窮乏に痛憤した青年将校の蹶起、侵略戦争に反対し、陸軍内の閥と幕僚を排撃して、陸軍の自由を愛好する分子・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
出典:青空文庫