・・・ 三 平時に於ては、主として反軍国主義文学に力点を置く、ということを述べたが、しかし、勿論、それに限ったことではない。どういう内容を扱ってもそれは自由である。そして、なお、次に述べようとする内容をも併せて、取扱って・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ただ平時の不注意や不始末で莫大な金を煙にした上に沢山の犠牲者を出すようなことだけはしたくないものである。 これは余談であるが、一、二年前のある日の午後煙草を吹かしながら銀座を歩いていたら、無帽の着流し但し人品賤しからぬ五十恰好の男が向う・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・そうしてぶらぶら歩いて日比谷へんまで来るとなんだかそのへんの様子が平時とはちがうような気がした。公園の木立ちも行きかう電車もすべての常住的なものがひどく美しく明るく愉快なもののように思われ、歩いている人間がみんな頼もしく見え、要するにこの世・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・ ただもし、百年に一回あるかなしの非常の場合に備えるために、特別の大きな施設を平時に用意するという事が、寿命の短い個人や為政者にとって無意味だと云う人があらば、それはまた全く別の問題になる。そしてこれは実に容易ならぬ問題である。この問題・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・こうした非常時の用心を何事もない平時にしておくのは一体利口か馬鹿か、それはどうとも云わば云われるであろうが、用心しておけばその効果の現われる日がいつかは来るという事実だけは間違いないようである。 神社の大きな樹の下に角テントが一つ張って・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・この問題はあまり簡単ではないが、ともかくも四本の一本がまさかのときの用心棒として平時には無用の長物という不名誉の役目を引き受けているのであろう。 数の勘定には十進法の数字だけあればそれでよいというのは、言わば机の三本足を使う流儀であって・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・能く能く考えて見ると人というものは、平時においては軽微の程度におけるローマンチシズムの主張者で、或者を批評したり要求するに自己の力以上のものを以てしている。 一体人間の心は自分以上のものを、渇仰する根本的の要求を持っている、今日よりは明・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・行軍の時に、輜重・兵粮の事あり。平時にも、もとより会計簿記の事あり。その事務、千緒万端、いずれも皆、戦隊外の庶務にして、その大切なるは戦務の大切なるに異ならず、庶務と戦務と相互に助けて、はじめて海陸軍の全面を維持するは、あまねく人の知るとこ・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ さて、この立国立政府の公道を行わんとするに当り、平時に在ては差したる艱難もなしといえども、時勢の変遷に従て国の盛衰なきを得ず。その衰勢に及んではとても自家の地歩を維持するに足らず、廃滅の数すでに明なりといえども、なお万一の僥倖を期して・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ところが、そういう画面で日本の女を紹介する習慣をもっている日本が、平時から世界で一位二位を争うほど、婦人労働者によって生産を守られているという事実は、特に昨今何か新たな感動で私たち女の関心をひくことである。 各国の有業者の人口に対する比・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
出典:青空文庫