・・・ 次にある価値を実現せしめることが、それ自らには善でも悪でもないというカントの考えは、価値が平等であるときには正しいが、実質的価値には等級がある。したがって意欲の対象たる価値そのものに即した善悪が存在する。より高い価値を実現する行為はよ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・死に面しては、貴賎・貧富も、善悪・邪正も、知恵・賢不肖も、平等一如である。なにものの知恵も、のがれえぬ。なにものの威力も、抗することはできぬ。もしどうにかしてそれをのがれよう、それに抗しようと、くわだてる者があれば、それは、ひっきょう痴愚の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・な、人間の死は科学の理論を俟つまでもなく、実に平凡なる事実、時々刻々の眼前の事実、何人も争う可らざる事実ではない歟、死の来るのは一個の例外を許さない、死に面しては貴賎・貧富も善悪・邪正も知愚・賢不肖も平等一如である、何者の知恵も遁がれ得ぬ、・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ その時に一つ困った事は、私がたとえばある器物か絵かに特別の興味を感じて、それをもう少し詳しくゆっくり見たいと思っても、案内者はすべての品物に平等な時間を割り当てて進行して行くのだから、うっかりしているとその間にずんずんさきへ行ってしま・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・もっと一般に言えば宇宙のエントロピーが次第に減少し、世界は平等から差別へ、涅槃から煩悩へとこの世は進展するのである。これは実に驚くべき大事件でなければならない。もっと言葉を変えて言えば、すべての事がらは、現世で確率の大きいと思われるほうから・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・……人間の平等を論じる人たちがその平等を猿や蝙蝠以下におしひろめない理由がはっきりわからなかった。……普通選挙を主張している友人に、なぜ家畜にも同じ権利を認めないかと聞いて怒りを買った事もあった。 今鋏のさきから飛び出す昆虫の群れをなが・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ぶくれていた着物を一枚剥ねぬぎ、二枚剥ねぬぎ、しだいに裸になって行く明治初年の日本の意気は実に凄まじいもので、五ヶ条の誓文が天から下る、藩主が封土を投げ出す、武士が両刀を投出す、えたが平民になる、自由平等革新の空気は磅ほうはくとして、その空・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・余は毎月刊行の雑誌に掲載される凡ての小説とはいわないつもりであるが、その大部分、即ち或る水平以上に達したる作物に対してはこの保護金なり奨励金なりを平等に割り宛て、当分原稿料の不足を補うようにしたら可かろうと思う。固より各人に割り宛てれば僅か・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ この故にこれら四種の理想は、互に平等な権利を有して、相冒すべからざる標準であります。だから美の標準のみを固執して真の理想を評隲するのは疝気筋の飛車取り王手のようなものであります。朝起を標準として人の食慾を批判するようなものでしょう。御・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・してみるといわゆる文明社界に生息している人間ほど平等的なるものはなく、また個人的なるものはない。すでに平等的である以上は圏を画して圏内圏外の別を説く必要はない。英国の二大政党のごときは単に採決に便宜なる約束的の団隊と見傚して差支ない。またす・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
出典:青空文庫