・・・花月新誌の新年号を見ていた花房が、なんだと問うと、恐ろしい顔の病人が来たと云う。どんな顔かと問えば、只食い附きそうな顔をしていたから、二目と見ずに逃げて這入ったと云う。そこへ佐藤という、色の白い、髪を長くしている、越後生れの書生が来て花房に・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
唐の貞観のころだというから、西洋は七世紀の初め日本は年号というもののやっと出来かかったときである。閭丘胤という官吏がいたそうである。もっともそんな人はいなかったらしいと言う人もある。なぜかと言うと、閭は台州の主簿になってい・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・それどころか、応永、永享というごとき年号を、記憶に留めるほどの刺激を受けたこともなかった。連歌の名匠心敬に右のごとき言葉があることを知ったのも、老年になってからである。しかし心敬のあげた証拠だけを見ても、この時代が延喜時代に劣るとは考えられ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫