・・・企業合同の今日の性格の歴史的な入りくみかたを考えても、私たちの心をさわがせる胡瓜一本一本に、やはり同じような幾重もの時代の性格が絡んでいるのである。 女性の経済についての知識が、一尾の魚を幾とおりに料理出来るか、という範囲よりも、広めら・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・ 悲しみは、世の中のすべての人をいつくしむ心をお与え下さいます。 幾重にも幾重にも被われた真の物の尊さを教えて下さいます。 どなたの御目にも私は、豆蔵みたいにうつって居る事でござんしょうねえ。 おもてはそれでも決してかまいま・・・ 宮本百合子 「たより」
・・・尤も考えてみれば刑務所への手紙は幾重もの検閲を経るのであるから、はっきりしたことの書けるわけはなかったのに、思慮が足りなくて陳弁された。 原稿は、いずれ又のこととして事務上の片は簡単についた。しかし、わたしの心の内には沢山の疑問がのこさ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・法 したが世の中はその方が良い事が多うござってのう、一概には得申されぬもので……王 おお、わしが気がつかなんだが御事の御出でやった事には幾重に礼事を申さねばならぬ事らしいのう。法 否、わしは母御の頭から生れたものと見え申し・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・私は過激な言葉をもって反対者を責め家族の苦しみを冒して、とうとう今日の正午に瀕死の病人を包みくるんだ幾重かの嘘を切って落とす事に成功した。肉体の苦しみよりもむしろ虚偽と不誠実との刺激に苦しみもがいていた病人が、その瞬間に宿命を覚悟し、心の平・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫