・・・ 破提宇子の流布本は、華頂山文庫の蔵本を、明治戊辰の頃、杞憂道人鵜飼徹定の序文と共に、出版したものである。が、そのほかにも異本がない訳ではない。現に予が所蔵の古写本の如きは、流布本と内容を異にする個所が多少ある。 中でも同書の第三段・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・ ドウいう人かと訊くと、それより数日前、突然依田学海翁を尋ねて来た書生があって、小説を作ったから序文を書いてくれといった。学海翁は硬軟兼備のその頃での大宗師であったから、門に伺候して著書の序文を請うものが引きも切らず、一々応接する遑あら・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・その中には小説の書き掛けがあったり、種々な劇詩の計画を書いたものがあったり、その題目などは二度目に版にした透谷全集の端に序文の形で書きつけて置いたが、大部分はまあ、遺稿として発表する事を見合わした方が可いと思った位で、戯曲の断片位しか、残っ・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
私は今日まで、自作に就いて語った事が一度も無い。いやなのである。読者が、読んでわからなかったら、それまでの話だ。創作集に序文を附ける事さえ、いやである。 自作を説明するという事は、既に作者の敗北であると思っている。・・・ 太宰治 「自作を語る」
・・・ 最後に云って置きますが、むかし、滝沢馬琴と云う人がありまして、この人の書いたものは余り面白く無かったけれど、でも、その人のライフ・ワークらしい里見八犬伝の序文に、婦女子のねむけ醒しともなれば幸なりと書いてありました。そうして、その婦女・・・ 太宰治 「小説の面白さ」
・・・S氏の序文、I氏の装幀にて、出版。 この日、午後一時半、退院。汝らの仇を愛し、汝らを責むる者のために祈れ。天にいます汝らの父の子とならん為なり。天の父はその陽を悪しき者のうえにも、善き者のうえにも昇らせ、雨を正しき者にも・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・自身の序文にもそうらしく見える事が書いてある。いずれにしても著述家として多少認められ、相当な学識もあり、科学に対してもかなりな理解を有っている人である事は、この書の内容からも了解する事が出来る。 この人のアインシュタインに対する関係は、・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・先ず『諸国咄』の序文に「世間の広き事国々を見めぐりてはなしの種をもとめぬ」とあって、湯泉に棲む魚や、大蕪菁、大竹、二百歳の比丘尼等、色々の珍しいものが挙げてある。中には閻魔の巾着、浦島の火打箱などといういかがわしいものもあるにはあるのである・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・Henri Bordeaux という人の或る旅行記の序文に、手荷物を停車場に預けて置いたまま、汽車の汽笛の聞える附近の宿屋に寝泊りして、毎日の食事さえも停車場内の料理屋で準え、何時にても直様出発し得られるような境遇に身を置きながら、一向に巴・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・先生が此論を起草せられたる由来は、序文にも記したる如く一朝一夕の思い付きに非ず、恰も先天の思想より発したるものなれども、昨年に至り遽に筆を執て世に公にすることに決したるは自から謂われなきに非ず。親しく先生の物語られたる次第を記さんに、先生は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫