・・・されども渠等は未だ風も荒まず、波も暴れざる当座に慰められて、坐臥行住思い思いに、雲を観るもあり、水を眺むるもあり、遐を望むもありて、その心には各々無限の憂を懐きつつ、てきそくして面をぞ見合せたる。 まさにこの時、衝と舳の方に顕れたる船長・・・ 泉鏡花 「取舵」
・・・日常坐臥は十分、聡明に用心深く為すべきである。 君の聞き上手に乗せられて、うっかり大事をもらしてしまった。これは、いけない。多少、不愉快である。 君に聞くが、サンボルでなければものを語れない人間の、愛情の細かさを、君、わかるかね。・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・吾人が日常坐臥の間に行っている事でも細かに観察してみると、面白い物理学応用の実例はいくらでもある。ただそれらは習慣のためにほとんど常識的になっているので、それと気が付かないだけである。例えば台所における物理学の応用だけでも、一々列挙すれば一・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・今の世は政治学芸のことに留らず日常坐臥の事まで一として鑑別批判の労をからなくてはならない。之がため鑑賞玩味の興に我を忘るる機会がない。平生わたくし達は心窃にこの事を悲しんでいるので、ここに前時代の遺址たる菊塢が廃園の如何を論じようという心に・・・ 永井荷風 「百花園」
出典:青空文庫