・・・「帰って来ても、廃兵とか、厄介者とか云われるのやろう。もう、僕などはあかん」と、猪口を口へ持って行った。「そんなことはないさ、」と、僕はなぐさめながら、「君は、もう、名誉の歴史を終えたのだから、これから別な人間のつもりで、からだ相応な働・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・ 満州で侵略戦争を開始し、戦争熱をラジオや芝居で煽るようになってから、皮肉なことにカーキ色の癈兵の装で国家のためと女ばかりの家を脅かす新手の押売りが流行り、現に保護室にそんなのが四五人引っぱられて来ているのであった。 そんな話を聞い・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・これら三つの戦争は、そのときどきの英雄大将を生みつつ一方では日本の街頭に廃兵の薬売りの姿を現出し、一将功なって万骨枯る、の思いを与えた。けれどもそれらの人々の犠牲で戦争に勝ったおかげで日本は一等国になれた、という感情が一般のこころもちであっ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・そこの住人であった一人の廃兵と労働者とが憲兵に引っぱって行かれた。プレットニョフはこのことを知ると、興奮してゴーリキイに叫んだ。「おい! マクシム! 畜生! 走ってけ、兄弟、早く!」 ゴーリキイは、合図の言葉を知らされて「燕のように・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そこの住人であった一人の廃兵と労働者とが憲兵に引っぱられた。プレットニョフはこのことを知ると、興奮してゴーリキイに叫んだ。「おい! マキシム、畜生! 走ってけ、兄弟、早く!」 ゴーリキイは、合図の言葉を知らされて、「燕のように迅く」・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・とも云い得るかのようであるが、実際には帝国芸術院が出来ると一緒に忽ち養老院、廃兵院という下馬評が常識のために根をすえてしまった。「新日本文化の会」が出来た。「中央文化連盟」が出来た。そういう記事報道を読む一般人の表情には、無関心か軽蔑か憎悪・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・国内には廃兵が充満した。祷りの声が各戸の入口から聞えて来た。行人の喪章は到る処に見受けられた。しかし、ナポレオンは、まだ密かにロシアを遠征する機会を狙ってやめなかった。この蓋世不抜の一代の英気は、またナポレオンの腹の田虫をいつまでも癒す暇を・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫