・・・すなわち物心という二要素が強いて生活の中に建立されて、すべての生活が物によってのみ評定されるに至った。その原因は前にもいったように物的価値の内容、配当、使用が正しからぬ組立てのもとに置かれるようになったからである。その結果として起こってきた・・・ 有島武郎 「想片」
・・・家庭の建立に費す労力と精力とを自分は他に用うべきではなかったのか。 私は自分の心の乱れからお前たちの母上を屡々泣かせたり淋しがらせたりした。またお前たちを没義道に取りあつかった。お前達が少し執念く泣いたりいがんだりする声を聞くと、私は何・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・同時に、その文化の出現を信ずる者にして、躬ずからがその文化と異なった生活をしていることを発見した者は、たといどれほど自分が拠ってもって生活した生活の利点に沐浴しているとしても、新しい文化の建立に対する指導者、教育者をもってみずから任ずべきで・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・法隆寺の塔を築いた大工はかこいをとり払う日まで建立の可能性を確信できなかったそうです。それでいてこれは凡そ自信とは無関係と考えます。のみならず、彼は建立が完成されても、囲をとり払うとともに塔が倒れても、やはり発狂したそうです。こういう芸術体・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・梅若神社の堂宇の新に建立せられたのもその頃のことである。長命寺門前の地を新に言問ヶ岡と称してここに言問団子を売る店のできたのもまたこの時分である。言問団子の主人は明治十一年の夏七月より秋八月の末まで、都鳥の形をなした数多の燈籠を夜々河に流し・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・何が故に平地に風波を起して、余計な私と云うものを建立するのが便宜かと申すと、「私」と、一たび建立するとその裏には、「あなた方」と、私以外のものも建立する訳になりますから、物我の区別がこれでつきます。そこがいらざる葛藤で、また必要な便宜なので・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・十四世紀の後半にエドワード三世の建立にかかるこの三層塔の一階室に入るものはその入るの瞬間において、百代の遺恨を結晶したる無数の紀念を周囲の壁上に認むるであろう。すべての怨、すべての憤、すべての憂と悲みとはこの怨、この憤、この憂と悲の極端より・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・運動場は代々木の練兵場ほど広くて、一方は県社○○○神社に続いており、一方は聖徳太子の建立にかかるといわれる国分寺に続いていた。そしてまた一方は湖になっていて毎年一人ずつ、その中学の生徒が溺死するならわしになっていた。 その湖の岸の北側に・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・お金を出したひとは、みんな自分の名が書かれている瓦や銅で、寺が建立されると素朴に信じているのであろう。しかし、瓦や銅板に墨で書かれた住所や氏名は、程なくそれを書いた者の手で苦もなく洗われてしまったのである。 こうして、蚕を飼ってため・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・ そこで何か目先のゴマ化しで、プロレタリア婦人の根づよい怒りをはぐらかそうとしてこういう産院建立も考え出されたわけなのです。 われわれはこういう記事をよむと、一層の階級的憤怒を感じる。だってそうではないか、姉妹! 市の細民カード・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
出典:青空文庫