・・・それで、ちょうど、ある弾丸の描く弾道はまた同時に他のすべての可能な弾道を代表するように、一遊星の軌道はまさしく天体引力の方則を代表するように、光源氏や葵の上の行動はまさしくその時代の男女の生活と心理の方則を代表するものとも考えられる。こうい・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・物理学者に聞けば、それは地球の引力によるという。もっと詳しく聞くと、すぐに数式を持ち出して説明する。そんならその引力はどうして起こるかと聞くと事がらはいっそうむつかしくなって結局到底満足な返答は得られない。実は学者にもわからないのである。・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・物理学者に聞けば、それは地球の引力によるという。もっと詳しく聞くと、すぐに数式を持ち出して説明する。そんならその引力はどうして起るかと聞くと事柄は一層六かしくなって結局到底満足な返答は得られない。実は学者にも分らないのである。 吾々が存・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・これは月と太陽との引力のために起るもので、月や太陽が絶えず東から西へ廻るにつれて地球上の海面の高く膨れた満潮の部分と低くなった干潮の部分もまた大体において東から西へ向かって大洋の上を進んで行きます。このような潮の波が内海のようなところへ入っ・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・この考えを更に押し拡め直接筋力と比較する事の出来ぬ種々の引力斥力を考えて森羅万象を整然たる規律の下に整理するのが物理学の主な仕事の一つである。 力の考えから仕事の考えが導かれる。力の作用せる物が動けば力はその物に対して仕事をし、また仕事・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・精しく云えばこの中には身辺にある可動性の器物や人間や一切のものの引力も加わっていてこれらが動けばそれだけの影響はあるはずである。ただこれらの影響は地球全体に比べて小さい事も確実である。次には雰囲気の引力から起るものであるが、これは地面にある・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・英国の田舎である一つの林檎が落ちてから後に万有引力が生れたのであった。その引力がつい近頃になってドイツのあるユダヤ人の鉛筆の先で新しく改造された。 過去を定めるものは現在であって、現在を定めるものが未来ではあるまいか。 それともまた・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・で、其女の大口開いてアハハハハと笑うような態度が、実に不思議な一種の引力を起させる。あながち惚れたという訳でも無い。が、何だか自分に欠乏してる生命の泉というものが、彼女には沸々と湧いてる様な感じがする。そこはまア、自然かも知れんね――日蔭の・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・つまり僕と宝石には、一種の不思議な引力が働いている、深く埋まった紅宝玉どもの、日光の中へ出たいというその熱心が、多分は僕の足の神経に感ずるのだろうね。その時も実際困ったよ。山から下りるのに、十一時間もかかったよ。けれどもそれがいまのバララゲ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・人間の沢山いる棧橋の方へ、何か魂の引力みたいなもので漂って来まいかといいようなくこわかった。その傍を通り過た漁船、裸の漁師の踏張った片脚、愕きでピリリとしたのを遠目に見た。自分、段々段々その死んで漂って行った若い男が哀れになり、太陽が海を温・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
出典:青空文庫